「無償化」だけでいいのか? 沖縄の教育・子育て政策に足りないこと

 

先ずは大人が「権利」を理解する必要がある

 ーそもそも「子どもの権利」はどんな定義で、現在の社会ではどんな風に受け止められているんでしょうか。

「人間らしく自由に生きるための根本にあるのが『人権』です。個性、多様性という言葉があるように、人それぞれみんな違うんだっていうことが出発点で、子どもに限らず大人の人権も当然尊重されなければならない。そこを起点にして、では子どもたちにどんな権利があって、今何が守られていないのか、何が必要なのかということを考えていかなければなりません。
 例えば、学んだり、遊んだり、友だちを作ったり、好きなことをしたり、こうした色んな体験の1つ1つが守られるべき子どもの権利なんです。それが、特に貧困家庭だとそうした権利を享受する機会が失われてしまうことがあります。あと最近はやっぱりヤングケアラーはまさに子どもが子どもならではの時間を奪われて、その子どもの権利への侵害になってしまっている。
 子どもの権利保障についての条例は、沖縄では2020年に『沖縄県子どもの権利を尊重し虐待から守る社会づくり条例』が施行されています。でも、PTAの講演会などで話してもほとんどの人が知らないのが現状です。県も普及啓発の事業として取り組み、予算をつけ、『沖縄県子どもの権利の日』を制定してるんですが…。
 こうした条例が存在しても、権利のことを知ることができるかというとそうでもないのが現状で、とりあえずは知ってもらって、それから根付かせていかなきゃいけないってことなんですよね」

 ーごく一般的なイメージとして「子どもは大人の言うこと聞かなければならない」という社会通念みたいなものがあって、保護者や学校教員などがある種“支配的”に子どもを扱ってしまうことも多々ある気がします。

「本来は子どもを1人の独立した人格として尊重しなければならないし、子ども扱いし過ぎず、子ども自身の選択や決定を大切にしなければいけません。大人は子どもの支配者ではないんですよ。
 力で押さえつけるというのは学校現場でよくあるし、特に部活動では顕著ですね。『指導』という言葉にもちょっと違和感があって、この言葉を使っている時点で既に大人と子どもの間には上下関係が発生していて、どうしても子どもを押さえつけようとしてしまいがちになってしまいます。それをそもそも見直さなきゃいけないんじゃないか。ここ最近はいわゆる“ブラック校則”への批判もあって、改善の動きがかなり出てきていると思います。
 ただ、こうした話は学校に限ったことではなくて、家庭でも当てはまるんですよね。子どもへのしつけは当然必要です。そして、悪いことをしたらちょっと叩くとか痛みを感じさせるのも必要だという考えを持っている人は少なからずいます。でも小さくても大きくてもやはり体罰は駄目です。子育ての中でバランスが難しいところでもありますが、子どもの主体性を尊重するための大人の意識も変えていかなければならない部分も大きいと思います」

 ー子どももそうですけど、まず大人に理解してもらわなければならない。

「学校でも人権の授業をさせてもらう機会があるんですけど、やっぱり学校の先生も子どもの権利についてよく理解しているとは言えないことも多いですし、人権と道徳を混同していることも多いんです。先生たちがきちんと分かっていない状態では、当然子どもたちに教えられないですよね」

権利保障と政策の距離を埋めるための議論を

 ーこれまでの沖縄県の貧困対策には、子どもの権利の観点が十分に反映されていると言えますか?

「子どもの権利保障に直結する具体的な政策というのは、実はちょっと難しいんです。議論が詰められずに、結局対症療法的に既存の施策を充てることも多く、子どもの権利の視点を入れたとしても『結局やれることは一緒だよね』というところに落ち着くこともあって、権利という抽象的なものに向き合う以上、そういうことになるのも分かる気はするんですよ。
 でも、やはりもっとしっかりと権利と政策との距離を埋めていくため、どういう風に具体的な施策を展開できるかも含めてきちんとした議論を行政としてすべきでしょうね。先に触れた県の条例には子どもの権利保障という要素も入ってはいるんですが、やはり虐待防止がメインなんです。本当は制定当初の時点で、もっと子どもの権利を保障するために何が必要なのかという議論ができればよかった。
 だから今後、県も改正するなら改正するための議論をし、それとは別に市町村ごとでも子どもの権利条例を整備してほしいと思います。そして、その制定過程はとても大切だと思うんです。私たちはこういう権利を守りたいです、こういうことをきちんと保障したいです、ということをはっきりさせた上で、そのために必要なことが何なのかを突き詰めることが出来れば、具体的な政策にしっかりと権利保障の視点を落とし込むことも出来るようになると思います」

■関連リンク
『復帰50年 沖縄子ども白書2022』(かもがわ出版 WEBサイト)
【沖縄県知事選】間もなく投票!各候補者の教育・子育て政策の目玉は? ‖ HUB沖縄
貧困率が“絶対”ではない 沖縄の「子どもの貧困」新たな指標の必要性とは ‖ HUB沖縄

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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