【eスポーツ@沖縄】「自分たちの遊び場は自分たちで作る」ゲームを通してJ-Snakeが築き上げた場所

 

 8月12日、浦添市のアイム・ユニバースてだこホール市民交流室は熱気が渦巻いていた。ステージ上のスクリーンと、フロアの卓上に並べられた多数のモニターには『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』のプレイ映像が映し出され、たくさんのプレイヤーたちが目を輝かせ、声を発しながらゲームを楽しんでいる。好きなものを求め、その熱意や喜びを共有する場としての盛り上がりは、多くのファンが集まる音楽ライブの会場を思わせるような光景だった。
 今や100人超の規模で開かれるようになったゲームイベント「美らブラ極2023 沖縄スマブラ大会」を主宰するのは元プロゲーマーのJ-Snake(ジェイスネーク)こと新里渉さんだ。「eスポーツ」という言葉が現在のように一般的になる前から「自分たちの遊び場は自分たちで作る」をモットーに沖縄ゲームコミュニティ「美ら組」を結成。様々なゲーム企画を試み、実践し、コミュニティ形成や運営を担いながら、プレイヤー人口の増加や認知度の拡大を含めたゲームの社会的地位向上に取り組んできている。

「無いなら、作ればいい」

『スマブラ』をプレイするJ-Snakeこと新里渉さん(手前)。ちなみにフォックス使い
『スマブラ』をプレイするJ-Snakeこと新里渉さん(手前)。ちなみにフォックス使い

「イベントをやり始めたのは10年ぐらい前です。沖縄にコミュニティが無かったので、『無いなら作ればいい』の精神で立ち上げました。最初はカラオケで4~5人くらいで集まるオフ会から始まって、どんどん人数が増えてきて、大会をやろうということになったんですよ」

 新里さんは自身の生い立ちやかつて引きこもりだった経験、『スマブラ』の現役プレイヤーとして視点を基に、コミュニティを築き上げてきた。自身も全国に名を馳せるレベルで活躍したプレイヤーでもあり、その目線を軸に据えた運営方針はコミュニティの人たちからの賛同とリスペクトを得ている。沖縄の『スマブラ』コミュニティと言えば〝J-Snake率いる美ら組”と言っても過言ではないのが現状だ。

 イベント運営は「コミケ方式」で、全員が参加者という形式だ(コミケは同人誌即売会を意味する「コミックマーケット」の略称)。参加者で会場を設営し、観戦と応援もしつつプレイ画面の実況・解説も参加者で代わる代わる担い、そして撤収まで参加者で行うという、参加者全員での協力体制が確立している。

観戦は音楽ライブ並みに超盛り上がる。これもある種のライブ
観戦は音楽ライブ並みに超盛り上がる。これもある種のライブ

 会場に足を踏み入れると、好きなことをやるために皆で協力して皆で盛り上げるというこの体制が、とてもピースフルな雰囲気を生み出していることを体感できた。年齢や性別を問わず、好きなゲームについて楽しそうに談笑し、進行に支障をきたさないように大会ルールを守りながら対戦する。

 今回は新里さんが交流を持っていた台湾の18人のプレイヤーたちも参加していて、ゲームが文字通り国境を超えるコミュニケーションの1つであることをオフラインで、肌で感じられる場にもなっていた。

子どもの頃の自分と亡き友人のために

 沖縄にゲームコミュニティを作り、そして継続していくための新里さんの大きなモチベーションが2つある。

 まず1つは、「子どもの頃の自分の夢を叶えたい」ということ。ゲームを好きになった小学生の頃、漫画雑誌に載っていたゲームの全国大会の記事を読んで憧れを募らせた。もちろん当時は沖縄で大会など存在しなくて、そもそも全国への切符すら掴む手立ても無い。

「本当に羨ましかったんです。野球部やサッカー部は頑張ったら皆に褒められて、県大会や全国大会への道筋がある。でもゲームは無かった。それが凄く不公平に感じて。だから大人になった自分が、子どもの頃自分があってほしいと思ったものを作ることで、今の子どもたちにスポットライトがあたって輝ける、競技でちゃんと成果を見せられる場所を作りたかったんです

 そして2つ目は、自ら命を絶ってしまった友人のためだ。その友人はオンラインゲームで全国でもトップクラスの実力があった。そして「ひきこもり」だった。「もっと早い段階でeスポーツが認められる世の中だったら、もしかしたらプロの選手になって皆に応援されて、死を選ばない道もあったんじゃないかな、って」

 新里さんはeスポーツイベントの開催や運営、若手の育成、動画配信、講演会などでゲームを普及する活動に加えて、不登校やひきこもりの子どもたちの支援にも取り組んでいる。「小さい頃の自分や亡くなった友人のような人たちがちゃんと認められる世の中になるまでは、何が何でも自分がやれる、やるべきことをしていきたい」と強く固い意思を言葉にした。

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