「平和主義」と「歴史回帰」 地域外交、慎重な対応を

 
沖縄県庁

 沖縄県は、地域の緊張を和らげようと、4月から「地域外交室」を設置し、照屋義実副知事が6月に訪韓したほか、7月には玉城デニー知事が訪中を予定している。中国側も習近平国家主席が6月4日、中国共産党の機関紙、人民日報の1面で「琉球」に言及するなど、知事の訪中を意識したと思われる反応を見せた。

 名桜大学の志田淳二郎准教授は「中国は長期的に物事を考えて動く。そういう国の指導者である習氏の発言は、国家の意思があると考えた方が良い」と分析する。

 地域外交について、県の期待は大きい。玉城知事は23日の「慰霊の日」に行った平和宣言で、「アジア太平洋地域における県独自の外交展開に努めていく」と意気込みを示した。

 5月26日の記者会見では、地域外交のゴールを問われ、玉城知事は「世界平和」と語った。つまり、県の動きは「平和主義」に基づいたものだと言える。

「慰霊の日」式典後、記者団の質問に答える玉城知事=23日、糸満市

 一方、中国側がどのような期待を持っているかは、評価が難しい面がある。人民日報は、2013年に「琉球の帰属は歴史的に未解決」と主張する論文を掲載したこともある。琉球から朝貢を受けていた中国側には、一部で「いつかは、沖縄に中華圏を中心とした伝統的な秩序へ戻ってきてほしい」という願望があると思われる。

 沖縄側の「平和主義」と中国側の一部にあるとみられる「歴史回帰への願望」には、ずれがあるようにも見える。双方が一致するのは、民間、経済、文化、学術の交流などということになるだろう。

 玉城知事は、6月8日の会見で、今回の訪中について「(コロナ禍からの)経済復興を見据えた、観光などの交流を展開していきたいということを中心に、現地の関係者と意見交換していきたい」と述べた。

 新型コロナで落ち込んだ県入域観光客数は、国内客では戻ったが、インバウンドはコロナ前の2~3割程度にとどまる。知事の訪中により中国から観光客が多く来県するようになれば、経済的なメリットは大きいと言えるが、交流が中国側の意向に左右されるリスクも伴う。

龍潭池から臨む首里城=24日、那覇市

 日本と中国の間は、経済的な結びつきも強い一方で、石垣市登野城の尖閣諸島問題も抱える。沖縄側にある「平和主義」の思いを超えて、中国で「歴史回帰への願望」が高まりすぎれば、逆にリスクが大きくなる可能性がある。県は、慎重な対応と説明が必要になるだろう。

 志田准教授は、中国では経済・文化交流も政府の意向を受ける場面があるとし、「外交では緻密な情勢分析や情報収集、結果の分析が重要だ。もし、自治体が行うのであれば、中央の日本政府としっかり連携しながらやる必要がある」と指摘した。(真栄城徳泰)

(記事・写真 宮古毎日新聞)


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