「無償化」だけでいいのか? 沖縄の教育・子育て政策に足りないこと

 

 貧困、虐待、ヤングケアラー、待機児童、妊娠・出産、いじめ……沖縄の教育や子育てを巡る課題を挙げると、大小様々無数に出てくる。とりわけ貧困が絡むものは、家庭や子どもの数だけそれぞれに問題を抱えていて多層的な様相を呈している上、そこに新型コロナウイルス感染拡大の影響も加わり困窮の度合いが深刻さを増している。窮状に対応するため沖縄県もこれまで貧困対策を講じ、改善している部分はあるものの、解決に至る壁はまだまだ高く大きいと言わざるを得ないのが現状だ。
 子どもたちのため、こうした厳しい状況に応じた対策を講じるには、どんな意識を持って何を考え、そしてどういう政策を練るべきなのか。沖縄県子どもの貧困対策に関する有識者会議の構成員を務め、8月に出版された『沖縄こども白書2022』(かもがわ出版)で子どもの権利について執筆している弁護士の横江崇さんに今回の県知事選にも触れてもらいつつ、話を聞いた。

そもそも子どもたちの声を聞き取れていない

子どもの権利について説明する横江崇さん

 ー県知事選が間近に迫っていることもあって、関連した質問からしたいと思います。候補者の3人全員が子育てや教育を貧困問題と絡めつつ重点政策に掲げていて、教育費や給食費などの無償化・補助を大々的にアピールしています。横江さんが普及啓発に取り組んでいる「子どもの権利」の観点から見て、この点をどう感じていますか?

「教育や医療など子育てにかかる費用を無償化することによって、子どもの教育の機会や医療を十分に保障することは、子どもの権利保障に資する政策と言えます。また、『子ども食堂』などこどもの居場所を作ることも、子どもたちに食事や様々な体験を提供したり、他者との関係を構築することも期待でき、子どもの権利を保障するための環境作りにはなりますね。
 ただ一方で、基本的な子どもの権利に関する意識の普及啓発と子どもたちのSOSの声を汲み取るための相談機関の設置については、具体的な政策としてもっと進めてもらいたいと感じています。
 現在の子育てや貧困を巡る問題の中では、困窮世帯にしても、ヤングケアラーにしても、体罰や虐待にしても、家庭の子どもたちにとっては“それが普通で当たり前のこと”と思ってしまい、自分の窮状を把握できずになかなか声に出せなかったりするんです。だからそのSOSをどうにか拾い上げて解決・救済していくシステムをきちんと構築することが急務だと思います」

 ー子どもたちの意見をきちんと受け止められるシステム、汲み取るシステムが無いというのは、指摘されてハッとしました。

「本当に苦しい、きつい、辛いという子どもたちの思いをちゃんと汲み取ってあげることももちろんですし、たとえ苦しい状態になっていなくとも『社会参加』の観点から子どもたちの意見を様々な場面で広く聞き取る体制を整えていかないといけない
 子どもたちが『自分たちで自分たちのことを決めていくことができれば、社会は変わる』という感覚を持てるようになってほしいですね。アクションを起こせば何かを成し遂げられるんだ、自分たちで何かを作っていけるんだ、といった感性です。こうした感情を持ってもらわないと『やってもしょうがない』『やっても無駄』という気持ちになってしまって、それこそ選挙のような社会的・政治的行動からも遠ざかってしまいます。こうした観点からすると、今回の知事選で議論されている子育て・貧困を巡る政策や、これまでの沖縄県の貧困対策では残念ながら不十分な部分もあると思います。
 今までさまざまな貧困対策をやってきてはいますが、これまでの取り組みの見直しと同時に、もう少し踏み込んだ子どもの権利保障を強く意識した施策を考えて実行しなければいけない時期にきてるのかなという感じがします」

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