生まれた場所を好きになって見えてくるもの 「ガイドが趣味」の稲福政志さん

 
沖縄市の「戦後文化展示資料館ヒストリートでガイドする稲福さん(右)

 稲福さんのガイドでは、初めて沖縄を訪れる人たちを案内する際には概ね最初にうるま市の海中道路で海を見てもらう。その後は参加者の興味・関心によっても変わるが、定番の首里城のほか、ひめゆり平和記念資料館や各市町村にある歴史・民俗資料館などで歴史を学ぶことが多い。特に資料館では、ほとんどの人たちが資料を熱心に読み込んでかなりの時間を費やす傾向にあるという。
 そして夜には当然、泡盛が飲める店にも行くし、民謡を聞くことができる店にも行く。

 大学のゼミで沖縄について学んだ人たちや、観光の文脈で対外的にPRされるイメージではあまり触れられない歴史に興味ある人たちと県内を巡ることは、稲福さん自身も毎回新鮮な発見があるという。「一通り案内した後に感想を聞くと、それぞれにとっての沖縄があって、自分とは違うものが見えていることが本当に興味深くて、それがダイレクトに自分の学びや気付きになります」

沖縄の魅力を知ってほしいのは、沖縄の人

 こうしたガイドの経験と様々な地域から訪れてくる人たちとの交流の中で、稲福さん自身の沖縄への思いや歴史や文化への理解も立体的になってきたというが、その一方で自身やガイドされる人たちの知識を深めることだけが目的ではない。

「僕はとりわけ沖縄の文化や歴史が好き、というわけではないんです。始まりとしてはあくまで“自分が生まれた場所”だから好きというか。だから、実は沖縄を知ってもらうことがゴールということではないんですよね。ガイドをした後に一緒に色んな所を巡った人たちが『自分の地元のことを考えるようになった』というリアクションをくれた時に『やって良かった』って思います

 地元に目を向けるという意味で、稲福さんが最も沖縄のことを知ってほしくて、魅力に気づいてほしい相手は、実は最も身近に居る人たちだ。

「僕がガイドをすると僕の自分の視点の沖縄しか伝わらないので、時には地元の友だちを呼んで車に乗せて、一緒に連れて行くんですよ。最初は『ガイドなんて出来ない』って言うんですけど、地元の濃いめの面白い情報は友人たちから絶対何かしら出てくるんですよね(笑)。自分は面白い場所に住んでるんだ、育ってきたんだということを自覚することで、自分が今居る『沖縄』という場所の見方は変わると思うんです。だから実は、僕が1番沖縄の魅力を伝えたい相手って、地元沖縄の人なんですよね

 ガイドすること、そして自身のルーツを通して「沖縄を好きになれた」という稲福さん。ガイドはあくまで無償でこれからも続けていくという。「観光に携わる人間としてではなく、“いち沖縄県民”として、きっと死ぬまでやっていくと思います。めちゃくちゃ楽しい趣味ですから」

■関連リンク
稲福政志さんのInstagram
「誰のための観光なのか」 これからの沖縄観光に必要なこと① ‖ HUB沖縄
地元への目線なき観光に未来はない これからの沖縄観光に必要なこと② ‖ HUB沖縄

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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