生まれた場所を好きになって見えてくるもの 「ガイドが趣味」の稲福政志さん

 
稲福政志さん

「本当に『沖縄のことを知りたい、分かりたい』という人たちに、沖縄の魅力をちゃんと届けたい。そしてそれをきっかけにして、自分の地元への興味につなげてほしいんです」

 地元・沖縄への思いをこう語る稲福政志さんは、「趣味=ガイド」という一風変わった嗜好の持ち主だ。ガイド活動に“目覚めた”時には、沖縄を案内したいという思いに駆られて自費で東京に乗り込み、ちんすこうを配り歩いて沖縄をアピールしたこともあるという強者で、平日は会社員として働きながら土日の休日時間を利用して県内外の同世代の人たちを中心に、沖縄の魅力を味わえる場所を案内している。それも無償で
「色んな人と色んな場所に行くのが楽しいんです。何度も行った場所でも、行く人たちで感想が全然違う。自分が1番楽しんでると思います」と稲福さんは嬉々として話す。

沖縄のことを何も知らない自分

 稲福さんの趣味がガイドになったのは、自身のルーツにまつわるとあるきっかけがあった。大学生の頃、フィリピン在住の親戚のもとを訪れて海外旅行を楽しんでいた時、ゲストルームに花笠や紅型など沖縄を感じるものが多数飾られていたが、話を振られた時にその歴史について知識がなく「自分は沖縄のことを何も知らなくて、何も伝えられなかった」。悔しさと虚しさを感じた瞬間だった。

 そこから沖縄への思いに火がついた稲福さんは、自身のルーツや地元に向き合いながら歴史や文化について意識的に学ぶようになった。その後も、アメリカの親戚が沖縄に訪れる機会が増え、再び案内したことが今につながる“原点”だという。

 そこからは色々なことを知りたくなった上に沖縄の様々なポテンシャルにも気づくようになり「アクセルが入って、楽しくなっちゃいましたね」。

ちんすこうを配って自力で“勧誘活動”

「その頃は沖縄の歴史や文化を感じられる場所に地元の友だちを誘ったりしてたんですが、全然需要が無かったんです。一緒に行って、一緒に知る喜びを共有したいという気持ちがちょっと先走ってた部分もあったと思います(笑)」

 しかし稲福さんはそれにもめげず、「誰かに沖縄の案内をしたい」という思いを抱えて持ち前の行動力で東京に飛び、沖縄関連のイベントに個人で乗り込んだ。そこでかりゆしウエアに身を包み、大学生くらいの同年代の人たちにちんすこうを配りまくって沖縄への“勧誘活動”を行った。「ちんすこうもらったんだから今度沖縄来てよ、という謎の勧誘をひたすらしてました。今考えたら完全に不審者ですよね(笑)」

 その熱意が伝わったのか、ちんすこうを受け取った人たちが本当に稲福さんを訪ねて沖縄に来るようになった。友達を案内すると、友達の友達が沖縄にやってきて、それからまた友達の友達の友達が…というように口コミでつながりが拡がって、これまで約3年間で100人以上の人たちを個人的にガイドしてきたという。

「僕がガイドする人たちは、青い空、青い海、みたいな分かりやすい“キラキラした沖縄”を求める人はあまりいなくて、どちらかと言えば沖縄戦や米軍統治といった、歴史の“ダークサイド”のような面をちゃんと見たい、知りたいという人がほとんどです」

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