【安全保障って何だろう?】「“自由”を守るために安全保障がなければならない」(関西学院大学・久保慶明教授)

 

根本で繋がる「自由」という言葉

 ―確かにそれ以上の展開無く話が終わってしまいますね…。

そこで2つの次の議論が出てきます。1つは沖縄の民意を国政で貫徹できないんだったら、国政の民意を取りにいかなければならないということ。キャラバンといったレベルではなくて、政党などにも戦略的に働きかけて、沖縄の民意を国政に通すための政治的な駆け引きをしていく。ここでは沖縄の政治家の存在が重要になります。
 そしてもう1つ重要だと思っているのが「自由民主主義体制」、特に「自由」という価値を大切にすることです。自由に暮らしたいと思っているところに、海外のどこかの国がそれを脅かすという事態も、自分たちを守るはずの軍隊が自分たちの暮らしを脅かすという事態も、ともに「自由が脅かされている」という意味においては同じ土俵に乗るはずなんです。その意味で、声を上げるのは絶対大事なんです。
 この理屈は実は安全保障にも潜んでいて、なぜ自分たちで実力を持って他国の侵略を防ぐかというと、自分たちが生きたいように自分たちの作りたい社会を持続させるため、要するに“自由を守るため”に安全保障がなければならないというわけです。
 こうして「自由」という言葉を使ってみると、実は沖縄の求めていることも、安全保障が必要だと言ってる人たちも、結構近い場所にいるんじゃないかと思うんですよ。とても根本的な話なのですが、人間は皆誰からも命を脅かされないで生きたいように生きる、ということについてはおそらく誰も反対しないでしょう。

 ―沖縄や台湾、中国への視点も交えるとどんなことが見えてくるでしょうか。

台湾と沖縄は一面では似ていて、一面では真逆にあると思っています。似ているのは「周辺」という部分で、沖縄だったら日本という国、台湾だったら中国という大きな国に対峙しながら、どうやって生きていくのかという所。だから沖縄で台湾有事が語られるし、それをある種の自分ごととして語りうるとも思うんです。それと単純に近くて隣り合ってるし、島である所も似ている。こうした共通部分は、台湾の問題を身近に引きつけて考えるきっかけになると思います。
 他方で、日本と中国が経済的に深い関わりも持つにも関わらず、政治的には緊張関係にあるというねじれがあります。そうすると、沖縄と台湾は似た状況にあるはずなのに、やり合う関係になってしまう。台湾はいざ中国と対峙することを考えると、戦略的な判断として日本と連係する姿勢を示すことになる。しかし、そのような台湾の姿勢は、日本政府に色々と反対の声を上げ続けている沖縄の一部の政治勢力の人たちには十分に理解できない、もしくは受け入れ難いものになっている可能性があります。
 でもそうすると、沖縄は結局中国と仲良くするつもりなのか、みたいな話になっちゃうんですよね。沖縄と台湾との関係を見る上ではこうした事情を理解しておくといいかもしれませんね。

社会的合意形成のための戦いが常にある

 ―「安全保障」というとあまりにも大きすぎて輪郭がボヤけてしまいがちですが、「自由」や「民意」といったキーワードを通してみると、自分ごととして考えるきっかけになりそうです。

そうですね。特に沖縄は安全保障を身近なものとして引き付けられる環境にあると思います。米軍基地や自衛隊基地の無い、さらに言えばそれらに関する歴史を持たない地域の人たちとは“響き方”が違うというか。
「自由」を第一に考えるとみんなが同じ土俵に立つことになりますが、一方でみんながそれぞれ完全に自分がやりたいことをしたら、自由が衝突を起こしてしまいます。その時に社会全体で制限や制約をかけるためのルールを作るために民意の話が出てくるわけです。
 沖縄が「もっと自分たちのことを鑑みて、自分たちに物事を決めさせてください」「我々の声を反映してください」と主張すれば、政府は国の安全保障を考えて「ここのところは我慢してください」「国の方針としてはこうします」と応じる。ここに民意のぶつかり合いが生じます。この時に実はどちらも自由を大事にしていて、その中で社会的な合意を作るために戦っているということはその都度繰り返し認識すべきことだと思います。
 しかし場合によっては制限されることも当然あるので、その度合いについて選挙というツールを使いながら、あるいは時には選挙以外のツールを使いながらコンセンサスを作っていかなければならないという共通認識を持つことが大事だと思います。

■関連リンク
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「民主主義の団結重要」 台北駐日経済文化代表処那覇分処・王瑞豊処長 ‖ HUB沖縄
ウクライナ出身女性「申し訳なくて遊びに行けない」侵攻から1年間、週7で働く理由 ‖ HUB沖縄

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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