「民主主義の団結重要」 台北駐日経済文化代表処那覇分処・王瑞豊処長

 
本紙インタビューに答える台北駐日経済文化代表処那覇分処の王瑞豊処長=10日、那覇市

 沖縄県と台湾は、これまで地域交流を通して互いの関係性を深めてきた。ロシアがウクライナへ軍事侵攻を始めて1年が経過した今、改めて地域交流の重要性とその役割は何か、中国の脅威に対してどのように受け止めているのか-。台湾の外務省総領事に当たる台北駐日経済文化代表処那覇分処の王瑞豊処長に見解を聞いた。(聞き手・西田雄一)

―台湾と沖縄における地域交流の現状

 台湾と沖縄は地理的にも近く、人的往来や経済などを含めた民間交流を頻繁に行っており、互いの関係は本当に密接だと感じている。コロナ禍前の2018年度には、沖縄を訪れた台湾人観光客は91万人で、消費額は624億円に上った。

  具体的な例では、宮古島市立下地中学校と台中市立漢口國民中學は、1999年から国際交流事業を開始して2004年に両校は姉妹校となり、定期的に教育交流も行っている。

―地域交流の推進に向けた方向性は

 台湾と日本は、国交がないので、やはり地域交流が重要な土台になると考えている。今後の方向性の一つとして、姉妹都市の締結に向けて取り組んでいるところだ。

 現在、台湾との姉妹都市締結は、宮古島市と基隆市、石垣市と宜蘭県蘇澳(スオウ)鎮、与那国町と花蓮市の三離島のみなので、沖縄本島の市町村との連携を推進していきたい。

県「地域外交室」の取り組みに注目

―玉城デニー知事が新たに設置する「地域外交室」への期待は

 私はいつも軍事よりも先に外交を講じるべきだと考えており、玉城知事の地域外交室の設置については、大変評価している。しかし、具体的には、まだはっきりしていないので、今後の玉城知事と県の取り組みに注目したい。

 外交と軍備増強の割合は、民主主義国家が相手であれば外交が9割で、軍事は1割でよいが、中国のような権威主義国家に対しては、外交が3割、軍備増強が7割と考えている。特に台湾では、中国に対して外交と対話をしながらも、軍備増強を忘れてはいけない。

―沖縄が地域の平和にどのような役割を果たせるか

 沖縄には台湾と一緒に平和のハブとしての役割を発揮してもらいたい。沖縄と中国、台湾の三者の経済交流や文化交流、観光などで沖縄を訪れ、交流することで正確な情報を知り、互いの誤解などを解消することができればよい。

―沖縄と台湾は歴史に翻弄(ほんろう)されてきたという意味で、沖縄から歴史の見方を発信する必要性は

 沖縄はアジアの玄関口で、台湾と中国の真ん中にある。その両方と交流してきた長い歴史があるので、恐らく沖縄にしかできないことだ。

 今後、互いに沖縄戦の悲惨さを知ることで「戦争は二度と起こさないようにみんなで頑張らないといけない」と思うはずだ。

台湾の国防費、過去最高額へ

―ロシアがウクライナに侵攻した後、台湾での変化は

 国防予算は今年、GDPの2.6%に引き上げ、約2000億円増額した。また、23年の防衛費を22年比で13.9%増の総額5863億台湾ドル(約2兆6500億円)とし、過去最高額とすることを閣議決定した。

 軍事圧力を強める中国に対抗するため、18歳以上の男性に課される4カ月間の兵役期間を、来年1月から1年間に延長する。

 自分たちで戦わないと誰も助けてくれないと考える台湾人は多く、民意に大きな変化があった。

―南西諸島周辺での緊張感への認識は

 沖縄の方々はあまり実感はないと思うが、台湾の人はいつも中国の脅威を感じている。文章や言葉での攻撃を「文攻」、武力での威嚇を「武嚇」という言葉があり、慣れている部分もあるが気は緩めていない。

民主主義の団結が重要

―「台湾有事」についての見解は

 中国は、台湾だけを相手にすれば勝ち目は十分あるが、日米を巻き込むと勝てないと考えている。米国が戦争に参加しない限り、日本は専守防衛なので、参加することはない。

 もし、沖縄を攻撃すれば、米国は報復する。中国にとっては台湾だけを相手に戦いたいと思っているので、私は「沖縄が巻き込まれることはあり得ない」と考えている。

―台湾は有事が起こった際、自力で戦うのか

 台湾人(2400万人弱)の7割は単独で向き合わないといけないと考えている。自分の上には親がいて、下には子どもたちがいる。家族を守るためにも自分が戦わないと、誰も守ってくれない。

―ロシアのウクライナ侵攻が長引いていることが中国に与える影響は

 台湾への戦争が、ゲリラ戦になると中国も台湾全土を制圧するのに時間はかかる。持久戦になると、恐らく中国にとって不利になる。また、習近平氏への批判が出ることも考えられ、中国の崩壊につながる可能性もある。ウクライナ戦争から学ぶことは多いのではないか。

―現状を踏まえて、平和を守るために台湾と沖縄を含めた日本が協力できることは

 ウクライナ戦争を見て、民主国家の団結は本当に重要だと考える。昨年の主要7カ国首脳会議(G7)のコミュニケで、台湾海峡の平和と安全の重要性を強調し、台湾と中国の問題で平和的な解決を促すという内容が盛り込まれた。

 今後、台湾が国連(UN)や世界保健総会(WHA)、アジア太平洋地域における経済連携協定(CPTPP)などの国際組織に参加することで、民主主義国家同士が一致団結して、権威主義国家の中国やロシアに対処していく必要がある。

 中国が簡単に武力による戦争を起こすことができない状況を作ることが大事になる。

(記事・写真 宮古毎日新聞)


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