【安全保障って何だろう?】「“自由”を守るために安全保障がなければならない」(関西学院大学・久保慶明教授)

 

 国の防衛力強化を巡って「台湾有事」「南西シフト」といった言葉を頻繁に目にするようになった。地理的に台湾に近く、自衛隊配備に揺れる石垣や宮古があり、そして米軍基地を抱える沖縄はその意味で安全保障の“最前線”に位置していると言えるだろう。しかし、この「安全保障」という言葉から受けるイメージは大きくてぼんやりとしている。国の“安全”を“保障”するのだから、全ての国民が関係するにも関わらず。
 今活発化している安全保障の議論について、どう眼差せばいいのか、どのように考え始めればいいのか。関西学院大学の久保慶明教授は「自分たちが生きたいように自分たちの作りたい社会を持続させるため、“自由を守るため”に安全保障がなければならない」と強調する。以前琉球大学でも教鞭をとり、政治学の観点から地方自治と安全保障との関係性についても研究する久保教授に話を聞いた。


誰の安全を守るのか、何の安全を守るのか

 ―安全保障を考えるための“道筋の付け方”ということについてお聞きしたいと思っています。どんなところから話をスタートしたらいいんでしょうか。

「誰の安全を守るのか」「何の安全を守るのか」ということについて考えるのが入り口になると思います。安全保障と言う時、一般的に使われるのは国家の安全保障ですよね。例えば日本の場合には「日本の安全保障」という言い方をされるわけです。そのために自衛隊があり防衛を考えていくんだ、という話になる。でも、その時の「国家」というのは1つの組織でしかなくて、それが何のためにあるかというと、その国に住んでいる人たち、あるいはその国の国土をきちんと支えていくためにあるわけです。
 そうすると、安全保障によって守られるべきはその人たちや国土であるということになります。その観点からみると、沖縄にある在日米軍基地や自衛隊の基地は、日本の国民や国土を守るための存在になるわけです。国は安全保障のために基地の運用を考えているわけですが、難しいのはその運用が地域の人たちの望むことと一致しない場合がありうるということです。もっと具体的に言えば、過度な負担が地域に生じる可能性が出てきます。

 ―議論の目線を地域や市民まで持っていくと、一気に生活に近づいたように感じます。

地域の人たちからすると、安全保障によってやはり自分たちの暮らしや土地を守ってくれと素朴に思うわけですよね。それを期待して基地を受け入れるという選択はもちろんあり得ます。でも、そうすることで何らかの“しわ寄せ”を食うことになると、本来は暮らしや土地を守るはずだった基地が、自分たちの暮らしを脅かす存在になってしまう。特に沖縄の場合はそれが戦前の経験を喚起して、反発に繋がる。
 国がやりたいことと地域が望んでいることがマッチしない時にどうするのかということについては、一概に答えが出る問題ではありません。ただ、安全保障を考える時に「そこにどのような問題があるのか」ということを踏まえて、誰が何の安全を保障するのかということを具体的に話し始めること、先ずはこれがスタートになると思っています。

「民意」への向き合い方を丁寧に

 ―基本の基本だとは思いますが、意外とすっ飛ばされがちな話だと思います。以上のようなスタート地点から、沖縄という場所を含めて今起きている安全保障の議論をどうみていますか。

2つの意見が退治する構図が、自明視されすぎているというか、毎回同じパターンを繰り返していると感じています。一方では、今だったら台湾有事とか、潜在的な脅威があるからきちんと軍事的に備えなければいけないという話がある。それに対して、地域住民を置き去りにしたしないで、きちんと外交的な手段を駆使していかなければいけない、というもう1つの意見がある。
 そんな中で、私は政治学者ということもあって選挙が大事だと思っているんです。選挙は「民意」を明らかにするためにあります。その民意は多様で、例えば沖縄だったら110万人以上の有権者がいますから、極端に言えば110万通りあるわけです。でも政治家たちが口にしている民意というのは「基地反対の民意」とか、ちょっと大まかなニュアンスになってしまいます。本当はそこをもっと丁寧に見ていかないといけないと強く思っているんですよね。
 民意を表出させるためにはきちんと範囲を設定する必要がある。沖縄選挙区レベルの民意があって、その1つ上には国政選挙レベルの民意があります。「沖縄の民意はこうでした」とどれだけ主張したとしても、「でも国政の民意はこうです」と返されれば、それ以上の議論は続かないと思うんですよね。

関西学院大学の久保慶明教授
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