「屋良覚書」って何? 下地島空港の軍事利用に“待った”をかける要石

 
2019年に新しく開業した「みやこ下地島空港ターミナル」

 こうして下地島空港は沖縄の本土復帰の前月となる72年4月に訓練飛行場として着工され、79年に供用開始となる。翌80年には民間航空機パイロットの訓練が開始され、さらに南西航空(現JTA)と那覇空港を結ぶ定期便も就航したが、利用客が少なく94年には定期便は運休する。

 その後、2019年には三菱地所が新しい旅客ターミナル「みやこ下地島空港ターミナル」を完成させ、再び定期便が就航。スカイマークやジェットスターなどの航空会社が定期便を運行している。

過去に米軍の使用、自衛隊誘致の動きも

 民間機以外の使用について下地島空港が取り沙汰されたのは、今回だけではない。訓練ではないが、2001年から02年にかけて、フィリピンでの合同軍事演習へ向かう米軍のヘリコプターが給油のために複数回飛来しており、沖縄県はこの時も米軍に対して使用の自粛を要請していた。

 さらに、自衛隊が関係する動きもこれまでにいくつかある。01年には、屋良覚書の存在が自衛隊誘致を阻んでいるとして、当時の伊良部町長が自民党県連に覚書の見直しを求めたこともあった。また、90年代半ばに下地島空港への定期便が運休したことから、島の活性化を図るため2005年には伊良部町議会が自衛隊訓練誘致を決議したが、住民からの反発を受けて撤回された。

 2013年は中国航空機による尖閣諸島周辺の領空侵犯への対処として、下地島空港に航空自衛隊のF15戦闘機を常駐させる案を防衛省が検討していたとされている。前年の12年に中国機が尖閣諸島周辺の領空を侵犯した際、那覇空港から緊急発進したF15が到着した時にはすでに中国機が領空外を飛行していた事案を受けての措置だった。

 この時も沖縄県は屋良覚書と西銘確認書の両文書を踏襲し、下地島空港を軍事目的では使用しないという県の立場を尊重すべきという認識を示している。

 台湾有事などを想定して政府が防衛力強化を加速し、与那国島での自衛隊を巡る動きが活発化する中、防衛相が下地島空港に関して自衛隊の利用をほのめかす発言をしたり、今年に入ってからは自民党議員が同空港を視察したりと、安全保障を巡る“ジャブ”が小刻みに放たれ続けている。

 屋良覚書は基本的に民間機以外の使用を認めない趣旨のものだが、その一方で米軍機が着陸料を課されずに国内飛行場を利用できることが認められている日米地位協定の存在もある。

 双方の優先順位については国も県もきちんとした回答・解釈を明示できていないとの指摘や、屋良覚書の法的な拘束力や、軍事利用を拒むための根拠としての強度について見直すことの必要性も指摘されている。
 これからの日本の防衛のあり方を考えるためには、以前にも増して沖縄の小さな島々が“最前線”として大国の意向に翻弄されている現状を踏まえつつ、歴史的経緯と目の前の事象とを冷静に見極める視点が必要になるだろう。

■関連リンク
玉城知事「事前に十分な協議必要」 下地島空港の米軍訓練使用で見解 ‖ HUB沖縄
下地島空港「民間機に限る」 玉城知事が米軍利用で見解 ‖ HUB沖縄
米軍、下地島での訓練取りやめ 沖縄県が自粛要請 ‖ HUB沖縄

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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