歴史劇「お笑いグスージ絵巻」知念だしんいちろうが「沖縄をテーマにせざるを得ない」理由

 
歴史舞台「お笑いグスージ絵巻」の一幕

 沖縄県内のお笑い芸人を中心にマネージメントする有限会社FECオフィス(山城智二社長)は1月27日、那覇市の首里城公園内「世誇殿」で沖縄の祝い事“グスージ”をテーマにした歴史舞台「お笑いグスージ絵巻」を上演した。ある家族の歴史を描いた長編コントでさまざまなグスージを楽しくかつ分かりやすく伝えた。出演者が身を包んだ琉球の衣装や、物語の転換時に入り込む歌三線や太鼓など、織物や音楽の側面からも琉球・沖縄の文化を紹介した。

 この舞台で企画・脚本・演出・制作・出演と5足のわらじを履いた知念だしんいちろうは「沖縄では生活と笑いが密接にある」と話し、その“面白素材”を活かしたアプローチを見せる。

知念だしんいちろう

胎盤を庭に埋めて大笑いする「イーヤーワレー」

 紅型・サンゴ染めの工房「首里琉染」(大城裕美社長)と連携した企画で、沖縄県の「令和4年度琉球歴史文化コンテンツ創出支援事業」を活用した。観客らは公演に先立って工房の見学やサンゴ染め体験、首里のまちのガイドツアーにも参加し、琉球・沖縄文化への理解を深めた。唄三線は、琉球古典音楽家のよなは徹が務めた。

 「お笑いグスージ絵巻」では、1歳の誕生祝いで子どもの将来を占う「タンカーユーエー」や、数え年97歳での「カジマヤー」など、多くの沖縄県民にとってはなじみ深いグスージの他にも、子どもが生まれた時に胎盤を庭に埋め、そこを親戚や近所の人が囲んで大笑いすることでこの世は楽しい場所だと歓迎する「イーヤーワレー」なども紹介された。

タンカーユーエーの一幕。赤ん坊である真鶴の祖母に扮したあきら本店(左端)は、真鶴がお金を選ぶまで繰り返しタンカーユーエーを行わせる。右から、ゴリラコーポレ―ションの仲村幸平(母役)と瀬名波勇介(父役)

 出演者の役どころも多彩で沖縄ならでは。その成長の様子が物語の中核を担うヒロイン・真鶴(まじるー)、真鶴の未来が見えると言って家の中に入り込んだユタ(民間霊媒師)、沖縄のお祝い事などでよく食べられるヤギ汁にされることを恐れるヤギなどが登場、客席を沸かせた。

美しく成長した真鶴を演じた仲本百合香(前列中央)や、ユタに扮したヨーガリーまさき(右)。定番キャラクターの「やぎのシルー」も会場を盛り上げた。

 琉球講談師として出演した知念だしんいちろうが、それぞれのグスージについて軽妙なトーンでメリハリ良く解説することで、初めて沖縄のグスージ文化に触れる人に対しても理解を助けた。

知念だしんいちろうロングインタビュー

Q.今回「グスージ」をテーマに喜劇を制作したのはどのような背景があったんですか?

沖縄では生活の中に笑いや祝いがより密接にあると思っています。例えば、天寿を全うした人の葬式では、しっかり長生きできたことを祝う意味で最後に紅白饅頭が配られますよね。『葬式でもお祝いなんだ』と。それってすごく明るいなと思います。沖縄の人の一生を行事で区切って芝居を作ったら楽しいのではないかと思ったことがきっかけです」

Q.知念だしんいちろうさんのお笑いには、ユタのキャラクター「大兼のぞみ」など沖縄をテーマにしたものも多く見られます。

「沖縄のことをテーマにしたいというわけではなくて、なってしまうというか。むしろ若い頃は『沖縄あるある』のようなネタを早く無くそうとしていました。逆に沖縄ネタをどんどんやって、観ている人に飽きてもらうことで『次に進んで沖縄の新しい笑いを作りたい』とも考えていました。でも、沖縄をテーマにネタをやればやるほど逆に『あれ、沖縄にはまだまだ面白いことがある』ということに気づいたんですよね。勉強不足だった自分を顧みて『沖縄のことはやらんといけんなぁ』と思っています」

Q.今回の脚本を書くにあたって何かしらの発見はありましたか?

「ありました。琉球歴史研究家の賀数仁然さんに監修してもらったのですが、『イーヤーワレー』など今まで知らなかったグスージを知ることができました。今回の脚本には盛り込めなかったのですが、数え88歳のトーカチでは、前夜に一度“葬式”をするんですよね。本人を一度寝かせて、深夜0時を回ったら起こして盛大にカチャーシーを踊る。『この人は一度亡くなって生まれ変わったので、あの世へのお迎えは来ないでください』というメッセージみたいなんですけど、最高じゃないですか(笑)グスージについて知れば知るほど、祝い事と笑いが近い関係なんだなと改めて感じました」

Q.今回のグスージ絵巻では、お客さんに地元の人と観光客が混在していました。沖縄の文化を扱うにあたって、どちらにどのぐらい合わせて伝えるかなど、難しくはなかったですか?

「今回の『お笑いグスージ絵巻』自体が新しいチャレンジだったので、むしろ変に合わせずに、普段通りの感覚でお笑いをした上で次にどうつなげるか考えていこうという気持ちでした。結果としては、最初から合わせる必要がなかったということに気づかされました。というのも、当日のリハーサルの時に、首里城に来ている観光客の方がその様子を見られる状態だったんです。するとどんどん人が集まって来て、めちゃくちゃウケてて。思った以上に言葉やニュアンスが伝わっていて『これはいけるな』と思いました(笑)。また、沖縄の歴史について観光客だけではなく地元の人も興味を持っているという手応えがありました。今後もどんどん『お笑いグスージ絵巻』を展開していきたいです」

Q.知念ださんは講談師としても出演していました。

「ナレーションのように説明を入れて分かりやすくするために、講談師を置いたのは新しい試みでした。歴史的な部分をしっかり言葉で解説しておくことで、コントではフィクションを織り交ぜることができるメリットもありました」

琉球講談師として演者も務めた知念だしんいちろう(左端)

Q.今作に限らず、FECの舞台では多くの脚本を手掛けていますよね。

「脚本を書く理由の一つではあるんですが、やっぱり芸人の仕事を作りたいという想いは強いです。芸人にとっては舞台でネタをやってお金をもらうのがベストなんですけど、なかなかそれだけではいかない現状もあります。そんな中で今回の喜劇は、舞台に立って笑いを提供してちゃんとお金を頂けるので、『沖縄で仕事としてお笑いを成立させる』上では可能性があると感じています。これまでにも、面白い人が芸人を辞めていくのを何回も見てきました。なぜ辞めていくのかというと結局、仕事がなかったんですよね。そんな人たちのためにも芸人の仕事を作っていきたいです。それは自分のためでもあります。自分にはお笑いコンプレックスがあって、自分のことを面白い人間だとは思えないんです。でもお笑いが好きで、面白い人の近くになるべくいたい。そのためには自分も面白くなってお笑いの仕事を継続できていないといけない。だから頑張っているという気持ちがあります」

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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