目隠しで!?ブラインドサッカー琉球Agachi 沖縄にパラスポーツの新風

 
琉球Agachi(緑)とナマーラ北海道によるブラインドサッカーの試合=6月、糸満市内

 一見するとよくあるサッカーの試合の光景だが、良く見ると違う。

 選手が目隠しをして、音の鳴るボールを耳で追いながら行う5人制の「ブラインドサッカー」。パラリンピックの正式種目にもなっており、国内の大会では見える・見えないに関わらず同じ条件で楽しむことができる。沖縄県内唯一のブラインドサッカーチームが「琉球Agachi」だ。南風原町を拠点に、2017年10月に発足した。

 6月に糸満市観光農園で行われた「北海道×沖縄フェスティバル」の一環で、「第一回琉球AgachiCUP」が開かれ、北海道からナマーラ北海道を相手に迎えて交流試合を行った。開始数秒で先制点を奪われるなど、格上のチーム相手に苦戦し、0-3で敗北には終わったものの、会場では初めてブラインドサッカーを観るという人が多く、競技の認知度向上を含めて大きな一歩となったと言える。

研ぎ澄ます聴覚と触覚

 視覚を頼りにできない分、神経を集中させるべきは聴覚と触覚だ。大きな声で声を掛け合いながら、ボールを奪いにいく時には「Voy voy voy!(ボイボイボイ)」と発する。スペイン語で「自分が行く」という意味だ。プレイそのものもそうだが、こうやって大きな声を出すこと自体でも結構体力を使いそうだ。転がるボールからは、ジャリンジャリンと音が鳴って、その居場所を伝えている。

 時には味方同士手で触れ合いつつ距離感を測りながら、ボールが足元に触れると即座に反応し、ドリプルやパスにつなげる。

 プレーヤーの他には、相手ゴール裏から味方の選手に、ゴールの場所や選手のポジショニングなどで指示を出す「ガイド」と呼ばれる役割の人も配置されている。

 まさに音の世界で全体像を想像して把握する必要があるので、静かに試合を見守るのも観客のマナーだ。試合前には観客に対して審判が「みなさんお静かにお願いします」と案内する場面もあった。

 普段視力がはっきりしている私のような人間にとって「何も見えない」というだけで恐怖がある。立って試合を観ながら、試しに目を閉じてみた。もしかしたらこっちの顔にボールが飛んでくるかもしれないなどという、可能性の低いことを心配してしまい、10秒も目を閉じることもできなかった。余計に選手たちのすごさを感じることができた。

クラファンで実現した必須アイテム「サイドフェンス」

 ブラインドサッカーでは、サイドラインに沿って腰上の高さ程度の「サイドフェンス」が設置されている。コート内にボールを保持しながら、選手が安全にプレイするためのフェンスだ。

 ブラインドサッカーには必須のサイドフェンスだが、沖縄には実物がなく、この試合をするにあたって、サイドフェンスの県外からの輸送費や、相手選手や審判の招致にかかる費用など計200万円をクラウドファンディングで賄った。サイドフェンスを備えての試合としては今回が初披露だ。

 試合を終えて、琉球Agachi代表の屋良景斗さんは「感無量です。拍手がうれしいです。沖縄の土地であんなに拍手が聞こえたのは、やっぱり嬉しかったです。それだけ周知した甲斐がありましたし、環境をしっかり整えたからこそ多くの人に見てもらえたのではないかと思います」と嬉しそうだ。ドリブルを中心に相手を圧倒する個人技を見せつけていた屋良さんは「点数決めたかったんですけど」と悔しそうにしながらもはつらつとした笑顔を見せていた。

琉球Agachiの屋良景斗選手

サイドフェンス購入500万円の壁

 琉球Agachiのメンバーは現在約20人。沖縄盲学校の卒業生が中心だ。

 これまでにも何度か県外での試合を経験しており、ナマーラ北海道のメンバーとは会場で顔を合わせる機会があったことから、初めての試合が実現したという。

 ナマーラ北海道のキャプテン・本間健吾さんは「雨が心配でしたが、たくさんの人に見てもらって、沖縄のブラインドサッカーの歴史に一つ新しいページが生まれたと思います」と共に喜んだ。「ブラインドサッカーは視覚障害者のスポーツではありますが、晴眼者も楽しめますし、支援者も含めてたくさんの人が関わっているスポーツです。この試合を見て1人でも『自分もやってみたい』と思って頂ける方がいると嬉しいです」

ナマーラ北海道の本間健吾選手

 屋良さんは小中高とバスケ部。サッカーを始めたのは大学生の時だった。視覚障害者と聴覚障害者のための大学・筑波技術大学に進学し、ブラインドサッカーチームの存在を知った。その時は自身がプレイするには至らなかったが、7年前に沖縄に戻ってきたのを機に、県内でブラインドサッカーを普及させようと思い至り、まずは自身が選手になった。

 以来、体験会を開催したり、県サッカー協会が主催するイベントで周知啓発を行ったりと「地道な活動で」(屋良さん)、徐々に一般層にもブラインドサッカーの魅力を浸透させている。

 「サイドフェンスがあれば沖縄県内どこでも試合ができます」と話すほど、ブラインドサッカーとサイドフェンスは切っても切れない。今回のサイドフェンスの輸送費だけで往復約65万円がかかっているが、購入するとなると500万円がかかるという。公式の大会や代表戦を沖縄で開催できることを見込んで、公式のサイドフェンスを用意する必要がある。屋良さんは「ぜひ沖縄県に買ってほしいです」と、パラスポーツの普及発展に向けて予算化を要望している。

 琉球Agachiへの問い合わせ先はryukyuagachi@gmail.com。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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