ニッキーが「沖縄はスタンダップコメディと相性が良い」と確信する理由

 

 今、沖縄でスタンダップコメディのシーンが盛り上がりつつある。3月11日には沖縄市のLagoon KOZAで、県出身の芸人4人が次々と話術で観客を沸かせるスタンダップコメディのイベントが開催された。主催したのは芸人のニッキー。日々の生活で直面する不条理を笑い飛ばす要素も強いスタンダップは、ニッキー曰く「沖縄と相性が良い」。「沖縄の人って、普段みんな我慢してるじゃないですか(笑) 基地問題や所得の低さ、離婚率の高さみたいな、数々の問題があって。負の要素をプラスに変えるという点で、沖縄にはネタがたくさんあります。我慢しているところをつついてあげるんです」と、日常に笑いのスパイスを加えている。

4人が起こすマイク1本での笑い

 この日のイベントに出演したのはニッキーの他、けいたりん(プロパン7)、玉代勢直(オリオンリーグ)、なかち。事務所も全員が別々でバラエティーに富んだメンバーが、マイク1本で笑いを起こしていく。ニッキーは過去にも県内各地で同様のイベントを開催してきており、沖縄市の空気感について「スタンダップが持つ、どんなスタイルでも受け入れる感じが、チャンプルー文化の場所柄と合うと思っています」と話す。

 玉代勢が岸田文雄首相の得意とする「聞く力」に引っ掛けて風刺の効いた笑いをぶち込むと、なかちは自らが「舐められている」エピソードを次々繰り出し、けいたりんはPTA活動を取り巻く本音の連発で観客の心をつかみ、ニッキーはある大舞台での通訳での強烈なエピソードを語る。

玉代勢直(オリオンリーグ)
なかち
けいたりん(プロパン7)

 通常の漫才や漫談のネタならば5分ほどの長さが多いが、この日のイベントは1人で20分も30分も話し、どんどんと話題を展開していく。ニッキーに関しては40分以上も話し続けた。「長い時間1人で話すと、それぞれの人間味が出てくるんですよね。良い意味でその人のどうしようもない部分も出てくるというか。それがスタンダップの魅力でもあります」とニッキーは語る。

スタンダップコメディとは

 アメリカなど海外では、コメディアンが一度のライブで何万人も動員するほど人気のショーだという。

 ニッキーはスタンダップコメディについて「僕としては、1人で話して楽しませるという形式が、すなわちスタンダップになると考えています」と話しつつも「人によっては『政治的な風刺を効かせるのがスタンダップだ』『自分の意見を組み込むのがスタンダップだ』『小道具を使ったらスタンダップではない』というような、それぞれの“スタンダップ定義”があります。このように、いろんな解釈が存在するというのも、スタンダップの魅力だと思います」と、その奥深さを語る。

元を辿れば「沖縄でもみんなスタンダップをやっている」

「そういう意味では落語もスタンダップだという見方もできますし、世界中あらゆる文化圏でスタンダップと呼べるような芸があります」とニッキー。今はスタンダップコメディアンとしての活動にも注力しているが、もともとデビューした時からピン芸人だった。「ですので、最初から僕はスタンダップをやっていたんですよ」

 まーちゃんこと小波津正光が2019年から毎週水曜に琉球新報社でイベント「ニュースペーBAR 泉崎コメディクラブ」を開催し続け、昨年7月には本場シカゴを拠点に活動する日本人コメディアンSaku Yanagawaとせやろがいおじさんが共演したイベントが那覇市内で開かれるなど、多方面からじわりじわりと沖縄スタンダップシーンが熱を帯びつつある。

 ニッキーは「元を辿れば沖縄にはたくさんスタンダップがあります。(1980代以降の沖縄喜劇の草分けである)笑築過激団にも話芸を披露するメンバーがいらっしゃいますし、(戦後に沖縄のチャップリンと呼ばれた)小那覇舞天さんもそうだと思います。それぞれの時代に、それぞれのテイストや表現があるんですよね」と語る。

下の立場から、上の立場を笑う権利

 各国の典型的なスタイルもそれぞれで、アメリカやイギリスでは“圧倒的強者”を笑って楽しむという文化があるという。「政治家やセレブといった上流階級の人たちを笑えるのは自分たちの権利だ、という考え方があります。イギリス王室もどんどんネタになりますよ。そんな強者たちをコメディアンがネタにして笑わせるという構図ができあがっています」

 イベント当日のネタでも、ニッキーは警察官によく職務質問されるというエピソードから、身近な“権力”をいじることによって会場の共感と笑いを誘っていた。「ハーフだからという理由で職務質問されるという下の立場から、上の立場である警察官とのやり取りを笑い飛ばすというのは、いわゆるスタンダップの格好のネタです」

海外も視野「人を楽しませたら受け入れてもらえる」

 動画のネット配信やSNSの普及などで、以前に比べて日本からもスタンダップコメディの世界を知る機会が増えた。ニッキーは将来的にはアメリカでスタンダップの舞台に立つことも視野に入れて活動している。

 ニッキーが高校生の時の、忘れられない思い出がある。学校で人前に出てあれこれ目立っていたニッキーのことを、あまり好意的な目で見ていない保護者がいたという。そんなある時、いつものように人前で話して笑わせようとしていると「その保護者の方が一番笑ってくれて。そこから僕のことを気にかけてくれるようになったんですよ。『今度こんなイベントあるんだけど何かやってみない?』とか。人を楽しませたら受け入れてもらえるんだなってその時に思いました」

 笑いは自分の武器にもなるし、人の心を解き放って助け出す道具にもなる。「世界中の人を笑わせたいと思っています」と話すニッキーの眼差しは、太平洋の向こう側を見据えている。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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