遠距離“同性カップル”がパートナーシップを結べた最大の理由

 

 立石さんは「浦添市の職員の方のご好意で、結婚して名字が変わったような気持ちになれるように『藤本麻由子』って書いた紙を用意してくれて。寄り添ってくれる空間を作ってくれたことにとても嬉しくなりました」と話す。

 藤本さんは「戸籍が変わるわけではないけれど、2人だけの約束ではなく、市の職員の方も一緒になって自分たちの関係を証明してもらえるのはすごくありがたいです」とその意義を語る。

「結婚するために手術しないといけないのか」

 藤本さんは戸籍上こそ女性だが「男女で決めつけられるのが嫌でした」と話すように、特定の性に自らを重ねることに窮屈さを感じている。制服のスカートを穿くことに強烈な抵抗感があったわけでもない一方で、“女性の身体”を持つ自身に対してはやはり思う部分はあった。「体のことは、一周回って受け入れていました。胸のふくらみも、とっても嫌というわけではなかったんですが、ない方がいいなぁという感覚です。人間誰しも持っているような見た目に関する悩み、例えば『ここにほくろあるの嫌だ』とか『もっと鼻高くなりたいな』とかと同じレベルだと捉えるようにしていました」

 そんな中で藤本さんは「世の中では女性として生きてきた」という。それもシンプルな理由だ。「免許証も保険証も性別の欄に『女性』と書いているので、だったら女性でいいです、みたいな感じです」

 藤本さんの場合は、「特に男にも女にもなりたくないのに決めないといけない」ことが結婚の障壁になってきた。それに加えて、結婚が手術と結びつくことにもなっていたのだった。「結婚するには性別を選ばないといけなくなります。もし女性と結婚するとしたら、わざわざ“男性”になるために手術しないといけないのかと困惑して、結婚は諦めていました」

結婚相談所もLBGTを“成婚”に

 全国では約250の自治体がパートナーシップ制度を導入しており、人口カバー率は6割を超えるとされている。沖縄県では那覇市と浦添市だけで全県的な導入はまだ進んでいない。

 そんな折、2020年には全国の結婚相談所が集まって「一般社団法人日本LGBTサポート協会」が発足。性的マイノリティーのパートナー探しを支援し、“成婚”の実績を挙げている。

 同協会に3人いる理事の1人が、沖縄県内で結婚相談所ハピオキを運営する婚活アドバイザーの仲原和香乃さんだ。仲原さんが掲げるテーマ「誰もが平等で自分らしく、生きやすい社会の実現に向けて」に含まれる「誰もが」には、もちろん性的マイノリティーの人々も含まれる。

仲原和香乃さん

 「LGBTの人の結婚を認めないのは、人権問題だと強く感じています。例えば、結婚するためにトランスジェンダーの方が性転換手術したとして、その人から生殖機能や遺伝子を奪うわけです。とても不条理な話ですよね」と仲原さん。「マジョリティーだけを向いて作られた社会は、生きにくい社会につながると思います。人々がみんな仲良く共存していくことで幸せな社会が作れるはずです」

 仲原さんによると、同性カップルには精子提供や代理出産、里親制度などで子どもを育てている人も多いという。「LBGTには生産性がない」との発言が国会議員からも飛び出す一方、フィンランドで34歳にして首相となったサンナ・マリン氏は、レズビアンの両親のもとで育ったことも話題になった。

 仲原さんは「子どもを育てやすい環境を作るためには、必ずしも男女じゃなくても良いと思っています。ジェンダーのしがらみから抜け出し、個々の能力や存在意義を発揮して、多様な家族の在り方が広がることで、子どもが安心して暮らせる社会につながるのではないかと思っています」との思いで、活動を続けている。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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