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犬や猫の譲渡を推進・強化「ハピアニおきなわ」家族連れも気軽に
- 2023/4/1
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沖縄県環境部は、犬や猫の譲渡を推進・強化する拠点として、沖縄県動物愛護管理センター「譲渡推進棟」を運用している。南城市大里の同センター敷地内で既存の建物を活用し、昨年10月から仮運用、ことし1月に正式に開所した。愛称は「ハピアニおきなわ」。これまでに犬猫約40頭が新しい飼い主に引き取られている。建物のエントランスには、ここで暮らす犬猫の名前や写真が掲示されており、「ゆめちゃん」も「カイ君」も「マロンちゃん」も「うた君」も、スタッフの深い愛情を受けながら新しい飼い主が現れるのを待っているところだ。
触れ合う部屋やドッグランも完備
玉城デニー沖縄県知事は、犬猫の殺処分について「動物愛護施策の推進、犬猫殺処分の廃止」との公約を掲げている。センターとしては旧衛生環境研究所ハブ研究室の施設を使用して2019年から登録ボランティア向けの譲渡を始めていたが、一般の家庭向けにも譲渡を行っていくという方針から、旧施設をリフォーム後、譲渡推進棟の運用開始に至った。
同センターの森河隆史所長は「殺処分を減らすのには、犬猫の収容数を減らし、元の飼い主への返還数を増やして、譲渡先を探していくということが大切です」と話す。
譲渡推進棟では、犬20頭、猫20頭が収容可能で、トレーニング(しつけ)や健康管理、人への慣らしなど個別にケアがされている。この日も、ちょうどシャワーを浴びて気持ちよさそうに出てきたばかりの中型犬の姿があった。犬猫が生活している部屋で、ラジカセからの音楽がBGMとして流れているのは、人間の声に日頃から慣れてほしいとのスタッフの想いがある。
収容されている犬猫とは直接触れ合うことができる。触れ合うための部屋にソファなど家具が配置されているのは、一緒に生活した後のイメージをしっかりと持ってもらいやすいからだ。
動物に関する書籍などが充実しているコーナーもあり、家族で連れだって気軽に足を運ぶことができる。広々としたドッグランも完備しており、無料で使うことが可能だ。その他、定期的にトレーニング教室も行っている。
譲渡推進棟の運営委託を受ける一般社団法人Cloud9代表理事の栗原景さんは「(譲渡で犬猫が)家族として迎え入れられるのはすごく特別な瞬間だと思います。そこに携われるのはこの仕事の魅力の一つです」と話す。
また、同センターで保護した犬や猫は、ウェブサイトで毎日のように情報公開をしているため、迷い犬・猫の早期返還にもつなげている。飼い主不明のまま保護された犬猫は多くの場合で同センターに収容されるため、県内で最も迷い犬・猫についての一元的な情報が集まっているサイトだ。
■関連リンク
沖縄県動物愛護管理センター
責任あるマッチング
譲渡に際しては、引き取り手に対して飼育方法や法律、衛生面の知識など、巣立った犬猫が幸せに暮らせるようにレクチャーも行う。栗原さんは「ライフスタイルや飼育環境などを聞き取り、じっくりお話をさせて頂いて、場合によっては譲渡を断らせて頂くこともあります」と話し、犬猫にとっても飼い主にとっても責任あるマッチングを重視している。
森河所長は「飼い犬がいなくなっても全く探そうとしない人も結構います。センターにやってくる犬の大半は、もともと誰かに飼われていた犬で、完全に野犬だなという犬は1割にも満たないです」と、犬猫を取り巻く現実を語る。
激減する殺処分数 2030年度にはゼロ目標
沖縄県はもともと、人口当たりでの犬猫の殺処分数が全国でもトップクラスに多い県だった。2012年度の人口10万人あたりの殺処分頭数(犬猫合計)で、沖縄県は432頭と、全国の127 頭と比べて3.4倍にも上る多さだった。しかし近年はかなりの改善傾向にある。
沖縄県の2003年度の殺処分の件数は犬7956頭、猫5500頭の計1万3456頭だったが、2021年度では犬28頭、猫192頭の計120頭に激減している。
殺処分数が改善した理由の一つに、収容頭数自体の減少が挙げられる。森河所長は収容頭数の減少について「飼い主のモラルが向上して室内飼いが一般的になったことで、外で子どもを作ることが減りました。また、捕獲にも力を入れた結果、野犬が少なくなったという要因もあります」と話す。
実際問題として、病気や攻撃性などで人に危害が及ぶといった理由でどうしても譲渡が叶わない犬猫もいるが、沖縄県の「県動物愛護管理推進計画」(2020年度改訂)では、譲渡可能な犬猫の殺処分を、2030年度にはゼロとする目標値を掲げている。
犬より猫の「返還数」が少ない理由
殺処分において、前述したように2021年度で犬が28頭に対して、猫は192頭と件数に大きな差がみられる。犬と猫の収容頭数自体に大きな差はないものの、特筆すべきはその「返還数」にある。
沖縄県動物愛護管理センター管轄分(宮古・八重山地区と那覇市を除く)の2021年度データによると、犬は収容頭数479、返還数193、譲渡数272、殺処分25だが、猫は収容頭数401、返還数3、譲渡数225、殺処分172だ。
犬の場合は狂犬病予防法に基づいて、徘徊している犬を行政が捕獲することが可能であるため、誰かの飼い犬であるケースも多い。しかし猫の場合は行政が積極的に捕獲することができないため、傷病の猫や親とはぐれた子猫などの保護に限定され、元の飼い主がいないことが返還数の少なさに反映されている。
また、センターに収容された後に負傷猫や幼猫が死亡してしまったケースも「殺処分」の件数としてカウントされることも、犬猫で件数に差がある一因となっている。
心を痛めるセンター職員
殺処分にはもちろん、県動物愛護管理センターの職員も心を痛めている。「センターで働く獣医師は、動物が好きで獣医師になったのに殺処分の判断をしなければならないので、つらいですよね」(森河所長)。毎年9月にはセンターで「人間の都合によってその天寿を全うすることができなかった動物達の冥福を祈る」ために動物慰霊祭が執り行われている。
自身も獣医師であり、休日には与那国島へ渡り鳥を見に行くなど、動物を愛する森河所長。「殺処分、できるだけ減らしたいですよね」と優しい語り口から漏れる言葉に、思いの丈が詰まっていた。