島しょ地域発の新たな教育の“カタチ” うるま市の「ネット部活」の現在地

 
「せやろがいおじさん」の名でYouTuber活動をする榎森耕助さんから、情報発信をする際に意識していることなどを聞く生徒たち=2022年11月、うるま市立与勝第二中学校

 「ネット部活」という取り組みを聞いた事があるだろうか。

 子どもの少ない島しょ地域ならではの教育における体験格差や他者との交流の少なさを解消するため、学校法人角川ドワンゴ学園が運営する通信制のN高等学校(うるま市伊計島)とうるま市が市内で取り組む事業だ。正式な事業名は「ICTを活用した特色ある学校づくり事業」。コロナ禍で世の中に一気に定着したインターネット動画通話やものづくりアプリなどを活用し、学校間の壁を超えて子どもたちの可能性をぐんぐんと広げている。

事業3年目 4小中学校を対象に

 2020年度に始まり、現在3年目。今年度は事業の一環で「うるま “島人(しまんちゅ)クリエイター” プロジェクト〜わたしたちの等身大のSNS発信!〜」と題し、様々な業界で活躍する“プロ”を講師として県内外から招いて生徒たちがコンテンツを制作、発信する試みも始まった。交流を通じて自分の好きなことを見付け、新たなスキルを身に付ける子も出始め、大きな飛躍の年となっている。

 ネット部活を実施している学校は彩橋小中学校、津堅小中学校、与勝第二中学校、角川ドワンゴ学園が全国を対象に運営する通信制のプログレッシブスクールN中等部の生徒たち。毎週月曜と水曜の週2日、放課後に支給されたパソコンからテレビ電話アプリ「Zoom(ズーム)」に入り、画面での交流などを通して様々な取り組みに挑戦する。

体験や交流の機会を創出 夢を持つ子も

事業について説明する広報担当の石川レンさん=うるま市の海中道路

 そもそも事業が始まった経緯は何だったのか。同事業の広報を担当する角川ドワンゴ学園の石川レンさんが説明する。

 「島しょ地域では人口減少や過疎化が進んでいく中で、廃校問題が深刻になっています。例えば津堅小学校では小学1-2年生の在籍数はゼロ、全校生徒数が3名という状況です。その中で伊計島に本校があるN高が教育分野で何か貢献できる方法がないかと考え、うるま市に相談を持ちかけたことがきっかけです。N高が培ってきたICTを活用した教育ノウハウを活用すると同時に、児童生徒たちの足元には島の豊かな自然・地域コミュニティがあり、思いっきりフィールドワークができるこの環境は、県内の教育分野において魅力的な場所になる可能性が大いにあります。事業を積み重ねることで、この教育環境を理由に移住してくる人も結果的に増えるのではないかと思っています」

 現在、学校教員の負担軽減や教員不足対策を目的に、国が部活動の「地域移行」に乗り出している中、うるま市は以前から外部指導者を積極的に受け入れるなど、全国でも先進地域として知られる。そのため、石川さんは「ネット部活も学校外部の我々が運営をしていますが、うるま市にはもともと外部指導者を受け入れる土壌があり、さらに島しょ地域ならではの課題も重なり、県内の他地域に比べて新しい事業を始めやすかったという背景があると思います」と説明する。

 生徒が少数の島しょ地域の学校では選べる部活動の種類が限られ、他者との交流機会も少ない。ネット部活を通して他の学校に友人をつくったり、体験の幅を広げたりすることも事業の大きな狙いの一つだ。石川さんが実際にあった事例を紹介してくれた。

 「例えば、今年度ネット部活に参加した彩橋中3年の男子生徒がいて、ネット部活で様々なテクノロジー技術に触れたり、プロとして活躍する大人たちから講義を受けることで、今年度に入りメタバース(インターネット上の仮想空間)の技術に興味を持ち、沖縄工業高等専門学校に進学を決めました。そしたら、この子に憧れたネット部活に所属する小学生の1人が『私もやりたい事を叶える場所は高専だ』と感じ、進学する目標を立てたんですよね。同じ地域の小中学校でも学年や学校が異なると意外と生徒間の距離はあったりしますが、ネット部活を通した体験や子ども同士の交流は生徒の視野を広げる効果もあると感じます」

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