島しょ地域発の新たな教育の“カタチ” うるま市の「ネット部活」の現在地

 

中学生が自ら楽曲制作も 子どもたちに“自信”を

中学2年生が作曲した「Chill Night Dance_feat.Miku」。ジャケットの絵もネット部活に通う別の生徒が描いた

 前述したように本年度は様々な分野から講師を招いており、これまでに漫才コンビ「ありんくりん」と一緒に漫才制作ワークショップをしたり、「せやろがいおじさん」の名前で社会風刺などをするYouTube動画が人気のお笑い芸人・榎森耕助さんからネットで情報を発信する際に重要なことを学んだりした。その他にもタレントのryuchrll(りゅうちぇる)さんや沖縄発の「VTuber」根間ういさんとバーチャル空間での交流をしたりと、内容は実に多彩だ。

 歌声合成ソフト「ボーカロイド」を使って楽曲を制作する「ボカロP」のねじ式さんを招いた際は、無料の音楽制作ソフト「GarageBand(ガレージバンド)」を使い、生徒たちが作曲に挑戦。つくったメロディーにねじ式さんが歌詞を付け、合成ソフトのキャラクター「初音ミク」の歌声で実際に曲を作った。

 中でも中学2年生がつくった「Chill Night Dance_feat.Miku」は出色の出来で、Apple MusicやSpotify、YouTube Musicなど様々な音楽サブスクサービスですでに配信されている。ジャケットの絵は、ネット部活内の絵が得意な別の生徒が描いた。

 この楽曲を作った子は普段の学校生活では、表立って自分の個性を発信してきたわけではなかったという。しかし、音楽を聞いた学校の校長先生が出来栄えに感動し、給食時間に放送で流したところ、他の生徒から「すげえじゃん」と声を掛けられるなどして、自信に繋がる経験になったと石川さんは言う。

 「これまで自分の特技を披露する場がなかった子に、ネット部活がそういう場になり、自信を深められたことはとても大きいと感じています。子どもたちは100人いれば100通りの性格や、興味のある事があります。それを追求して、発表し、フィードバックが返ってくる環境があることはとても意義があります。子どもたちの可能性を最大化する新しいやり方が、少しずつ形になってきています」

2023年度は対象をうるま市全域へ 県外から視察も

与勝第二中の体育館で行った成果発表会の様子(事務局提供)

 メタバースの体験や音楽制作など、子どもたちが学校の授業では学べない世界に触れたり、その分野の追求、発表を通して自信を養ったりすることは、何も島しょ地域だけに求められている事ではない。県外からの注目度も高く、2022年度は神奈川県の鎌倉市議会が視察に訪れた。県内の市町村議会からも視察の申込みがあったという。

 島しょ地域ならではの課題解決を目的に始まった新たな教育の”カタチ”とも言えるネット部活。どこまで対応できるかは学校ごとで事情も異なるため、希望する小中学校のみとなるが、事業開始から4年目となる2023年度は島しょ地域以外の学校からも参加を募る予定だ。子どものインターネットとの付き合い方や、教員の働き方をより良いものにしていく観点からも、ネット部活の取り組みはうるま市の枠を超え、沖縄県全域、そして県外にまで広がっていくかもしれない。

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長嶺 真輝

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ながみね・まき。沖縄拠点のスポーツライター、フリーランス記者。
2022年3月まで沖縄地元紙で10年間、新聞記者を経験。
Bリーグ琉球ゴールデンキングスや東京五輪を担当。金融や農林水産、市町村の地域話題も取材。

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