「首里劇場」72年のあゆみを捉えた短編映画がオンライン上映中
- 2022/10/12
- エンタメ・スポーツ
今年6月に惜しまれながら閉館した、沖縄に現存する中で最古の映画館「首里劇場」をテーマにした短編ドキュメンタリー映画『首里劇場ノスタルヂア』が、京都国際映画祭の特別上映作品としてラインナップされており、10月10日からオンラインでの上映も始まっている。
“名物館長”の金城政則さんが4月に亡くなり、後継者がいなかったことで閉館を余儀なくされた首里劇場のあゆみを、1950年代以降の写真や映像などの記録も交えて映像化。20分というコンパクトな作品ながら、歴史そのものに加えて、建築分野からみた劇場の史料的価値の重要性や、縁のある沖縄演劇界関係者たちの姿も捉えており、複数の視点から沖縄の戦後史が立ち上がってくる。
オンライン上映は京都国際映画祭のサイトで「FANY ID」のアカウントを作成してログインすれば、無料で視聴することができる。上映期間は10月16日までとなっている。
あの名物館長の元気な姿も
「無観客上映に負けるな!コロナに負けるな!映画館頑張れー!!」。握りこぶしを力強く振りかざしながら、勢いよく全ての映画館へのエールを送る金城館長が冒頭に登場する。
映画を監督したのはNPO法人「シネマラボ突貫小僧」の代表・平良竜次さん。金城館長が亡くなった際、首里城の文化遺産としての価値を記録・保存するための首里劇場調査団を立ち上げており、調査団は製作にもクレジットされている。劇場が閉館状態となってからも、その文化的価値を広く周知するために、不定期に内覧会ツアーを行っている。
生前の金城館長との付き合いも長く、上映作品や上映形態の変遷を見つめてきた平良さんのレンズ越しのまなざしは、どこまでも温かい。と同時に、たくさんの人たちの思いと歴史が何層にも積み重なってきたこの空間を、なんとかして残していきたいという切実な意思に満ちている。
佇まいと空気感を画面に収めたい
「沖縄国際映画祭の会場の1つとして首里劇場を2回に渡り使ってもらったのですが、実行委員会の担当者が劇場の風情を気に入ってくれたんです。その方は館長急逝後の最初の内覧会にもわざわざ東京から駆けつけてくれました。その際、『首里劇場の現状を伝える映像を作ってもらえたら提携している京都国際映画祭で上映したい』との話を頂きました」。映画製作のきっかけについて、平良さんはこう説明した。
当初は5分程度の映像でいいという話だったが、製作を始めてみるとそれで足りるはずもなかった。「首里劇場72年の歴史を5分にはおさめられないですね(笑)。それと、現在の首里劇場の佇まいや空気感も伝えたかったので、結局20分になってしまいましたね」
金城館長が亡くなった後は、遺族と協議を重ねて平良さんを始めとした有志のメンバーで劇場を管理することが決まり、内覧会を随時開催することになった。
現在は前出の首里劇場調査団が主体となって、沖縄県文化振興会の「沖縄文化芸術の創造発信支援事業」として採択されており、建築、沖縄芸能、映画興行といった各分野の専門家による調査が進められている。今後はシンポジウムや、調査結果や成果を発表するWEBサイトも作成予定という。
「今失おうとしているもの」に目を向ける
現状について「僕たちが今行っているのは首里劇場の調査だけです」と平良さん。
劇場の保存・存続を望む声も県内外から少なからずあり、平良さんたちもその方向性を模索しているが、建物の老朽化はかなり激しく危険な状況でもある。取り壊しの話も出ているが、現段階でどうするのかはまだ決まっていない。
「今の僕たちができることは、首里劇場という戦後沖縄の庶民による文化が花開いた場所を1人でも多くの方に知っていただき、その貴重さを心に留めてもらい、それを後世に伝える。それだけでしょうか。首里劇場が存続もしくは無くなってしまったとしても、僕たちのやっていることは無駄なことではないと信じています」
映画の中で、印象に残った言葉がある。調査団のメンバーで一級建築士の普久原朝充さんが、建築調査をしながら話しているシーン。普久原さんは戦前の建物が文化遺産として保全されている一方で、戦後復興の中で生活に密着して機能していた建物が文化的な保護政策の範疇に含まれていないことを指摘する。
そして2022年が沖縄の本土復帰50年という“節目”の年ということにも触れつつ、スクリーンの前で首里劇場の空間を指差しながら言った。「今自分たちが失おうとしているものについても、ちゃんと目を向けて考える年であってほしかった」。
この映画に込められたたくさんのメッセージを受け止めることは、首里劇場の存在のみならず、その先にある「文化とは何か」といういささか大きな問いについても考え、向き合う契機になるだろう。
■関連リンク
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