OIST入居の企業が開発「超吸水性」素材が世界を変える理由

 

土壌改良にも

 材料にサトウキビやオレンジ、シークワーサーなど残渣といった植物由来の有機物を使っているため、土壌内で完全分解され廃棄物を出さない上に、EFポリマー自体が持つ微量栄養素が土壌改良材としての機能を持ち合わせる。これにより2割程度の肥料を削減することが可能だ。

 EFは「エコ・フレンドリー」の頭文字で、その名の通り環境に優しい製品となっている。6月には世界的に権威のある英国の環境賞「アースショット賞」にノミネートされ、9月には、GrabやDiDiといった今では世界的なスタートアップが過去に受賞した「2022 APAC クリーンテック 25」にも選ばれた。

「干ばつに悩む家族や村の仲間を助けたい」

 弱冠24歳のCEO・ガルジャール氏がこのビジネスを始めたのは「干ばつに悩む家族や村の仲間を助けたい」という純粋な思いが出発点だった。インド・ラジャスタン州の乾燥地域にある人口約300人の村で生まれ育ったガルジャール氏は、同様の研究を高校生の時からすでに始めていたという。

 科学がずっと好きだったガルジャール少年は父親に「そんなに科学が好きだったら、水不足とか村の課題を解決してみたら?」と声をかけてもらったのが大きな転機になった。ガルジャール氏は「最初は、オレンジの皮を土の中に埋めたらどうなるんだろうというような試みから始まりました。自然からいろんなことを学びました。自然にこそさまざまな課題を解決する源があります」と試行錯誤の日々を振り返る。

 2018年、大学2年の時にインドで起業し、法人を設立。EFポリマーの原材料は当初、街中の店を回って集めたオレンジなどの皮を集めて作った。その後、世界中の研究支援プログラムを調べている中で発見した一つがOISTのプログラムだった。翌2019年から沖縄で研究開発を続け、現在のEFポリマーの強みの一つである「100%オーガニック」を実現した。2020年3月に日本法人を設立し、初めに立ち上げたインド法人は子会社化している。生産は今も母国インドで行っている。

 ガルジャール氏の実家もまた農家だ。きっかけをくれた父は「地に足を付けて頑張りなさい。成功しても失敗しても心が浮き沈みしないようにしながら、自然と共に前に進んでいきなさい」と言葉を送っているという。自然と共生するという考え方そのものが、このEFポリマーを生み出したとも言える。

赤土流出抑制にも効果

赤土が流出している様子(資料写真)

 超吸水性のEFポリマーは、あくまで「素材」だ。100%オーガニックの強みを生かして廃棄の際にも環境に優しいという点で、農業分野以外にも様々な分野で活用の可能性がある。

 恩納村と共に取り組んでいる実証実験を通して、沖縄のサンゴ礁保護にも一役買っている。土壌改良を行うことで、サンゴ死滅の原因となる赤土流出を抑えることができる。

 その吸水力は砂漠の緑化にも生かせる。中国の内モンゴル自治区では有限会社バンベン(福岡県)や株式会社氷竜(愛知県)といった日本企業が協力し、現地で砂漠緑化に取り組む活動にEFポリマーを寄贈する動きも進んでいる。その活動に賛同した「PwC財団」からは環境助成事業として支援協力も受けるなど、さまざまな組織と連携して取り組みを進めている。

 また、新興国の経済発展に伴って世界的な需要増が見込まれる女性用生理用品や紙おむつを筆頭に、保冷用ゲル剤、使い捨てカイロ、土のう、簡易トイレ、ペットシートなども用途として模索している。超吸水性ポリマーの世界市場は今後、年平均で約6%もの成長が見込まれるという。分解可能というエコな特性で市場の一歩先へと抜きん出ることが期待される。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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