沖縄農業の振興策を聞く JA沖縄中央会の嵩原代表理事専務インタビュー

 
JA沖縄中央会代表理事専務の嵩原義信氏

 島嶼県ならではの輸送コストの高さのほか、担い手不足などの課題を抱える沖縄の農業。6月にJA沖縄中央会の代表理事専務に就任した嵩原義信氏(57)に、県内農家の現状や農業振興策、課題解決に向けた抜本的打開策を聞いた。

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ー県農業の現状と課題ー

 課題としては、農地流動化や生産基盤の強化、生産性の向上、輸送コストなど地理的不利性の解消、農畜産物のブランド化による付加価値の向上、観光産業との連携などに加え、全国とも共通する生産者の高齢化や担い手不足の問題が挙げられる。

 新規就農者を増やす取り組みは、国、県の支援策の有効活用で受け入れの間口を広げ、最初はパート、アルバイトから就農体験の機会を増やし、副業的農業や兼業的半農など多様な形態で、農業に関わる人口を増やす必要がある。

 いきなり農業で一定の収入を上げようとしても、技術的にハードルが高く、農業参入のリスクとなる可能性もある。まずは「農業の魅力」を発信していくことが大事だが、多くの県民は知る機会に乏しい。

 若者の農業に対する肯定的考えを広めていけば、いろいろな分野から「就農したい」という若者も確実に増えると思う。

スマート農業にも期待

 また、「スマート農業」などの新技術が進むとの期待もある。やり方次第では高収入を得ることのできる業態なので、若いうちからチャレンジできる環境を整備する必要もあるだろう。

 農地の問題は、沖縄は先祖伝来の農地を手放しにくい土地柄で、流動化が進まない現状がある。「農地中間管理機構」(農地バンク)制度が徐々に機能すれば、高齢で離農する農地を中心に集積効果は得られるのではないか。

 生産基盤強化については、沖縄は全国比較で遅れているが、畑地かんがいや排水整備も進んできており、これに新たなテクノロジーが応用されれば、中長期的に沖縄独自の「スマート農業」の展開も可能だ。

 沖縄農業は、世代交代の過渡期にある。生産現場で不足している労働力では、海外人材も受け入れ、農業生産を持続確保する。JA沖縄中央会でもベトナム、インドネシアを中心に、研修生を派遣する事業を行っている。今年度は約100人以上を見込んでいる。

輸送コスト低減策

 輸送コスト等の低減策については、「一括交付金」を活用した県事業で、輸送条件に応じた支援を得ながら産地を形成してきた。

 今年度から新たに始まる振興策の中では、事業内容が見直され、輸送手段に関わらず「定額助成」となり、船便へのシフトが求められている。輸送コストの低減には一定の効果はあるが、農産物の鮮度、品質に支障を来たすことが懸念されており、生産者や関係業者も含めて見直しを求める声が大きい。

 県農畜産業が目指すブランド化にもマイナス要因になりかねないことから、JAグループとしても見直しを強く求めながら、運用改善を働き掛けている。

 本県農業の特性に合わせ、農業者所得の向上、農畜産物の生産量を維持しつつ、品質的な付加価値を高めていくことが大切で、多様な販促を駆使し、収益性を高めることも大事だ。

飼料や肥料、燃油の高騰について

 農業者収支に直接ダメージを与える大きな問題だけに、品目横断的な課題として、関係業界と連携し要請行動を展開している。

 特に、国に対しては恒常的な取り組み策が必要であり、同時に消費者への理解(を得る努力)も丁寧に行っていきたい。

世界情勢を踏まえた農業生産基盤の確立

 新型コロナウイルスの感染拡大や、ウクライナ情勢によって、世界的なサプライチェーンが機能しなくなる中、日本の食料や農業生産資材の海外依存度の高さが表面化した。国際情勢の不安定さを反映して、「食料安全保障」の考えが国民の中に広がっている。

 これまで工業製品を輸出して外貨を獲得していた日本全体が、もはや時代遅れになった感が否めない。有事への不安が国民に食料自給の重要性を気付かせるきっかけとなっている。

 農業団体として、JAグループは、かねてより国内自給率向上を求めて「国産国消」を提唱し、食料の海外依存の危険性を強く訴えてきた。

 農業の生産基盤は、日本全体で見た場合、「衰退の流れ」に歯止めがかかっていない。人口減少による国内市場の縮小の中で、輸出で海外市場に活路を求めようとしているが、重要なのは国民の食料自給だ。

 エネルギーや産業経済と同様に農業にも「所得補償」の形で予算を投入し、規模拡大、新たな担い手育成に資源(財源)を投入していく必要がある。

 特定の専業農家だけに支援を集中する従来の農業政策の見直しも不可欠だ。今こそ、「国民の胃袋」を賄える食料生産を可能とする農業の持続的安定性確保に主眼を置いた政策が必要ではないかと考えている。

離島農業への取り組みについて

 需給バランスが崩れる中で生じた「黒糖の在庫問題」は、一昨年から政府の支援策によって、一定の在庫抑制を図ることができた。しかし、依然として販売促進に向けた努力が必要不可欠な状況となっている。

 黒糖工場を抱えるJAおきなわは、離島生産者の所得確保と併せて経営継続の課題も克服しなければならない。売り先開拓も含め販売活動を展開し、県産黒糖の在庫解消に努めている。

 一方で、サトウキビ増産に向けた取り組みは、県内生産者の所得を確保する上で、極めて重要な取り組みだ。

 再生産可能な交付金水準の確保と併せ、増産に向けた国、県制度の有効活用も含め、生産向上に向けた機運を高めるよう取り組んでいる。懸案となっている分蜜糖工場の老朽化対策や、「働き方改革」の対応についても、国、県、関係団体とも連携を図り、実現に向けて取り組んでいく。

(記事・写真 宮古毎日新聞)

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