地元への目線なき観光に未来はない これからの沖縄観光に必要なこと②

 

「変化の兆しを作り出したい」

 ―その意味ではお客さんの“質”ということも論点としてありますよね。もちろん差別するわけではなく、マナーや節度というレベルでの話で。

白石:交通の弁も良くなり、LCCなどで誰でも気軽に来られるようになったのは良いけれど…離島がどういう場所か分からないで訪れる人も多くいると思います。他の地域と変わりない旅行先の1つとして。

 例えば西表島では、レンタカーを予約しておらず現地に到着してから「どうやって回ればいいんですか?」と尋ねられたことも多々あります。サンダルやヒールでトレッキングに行って、ケガして動けなくなったというケースもある。こうした島での事故に対応するのは地元の消防団の人たちなんです。それぞれ自分の仕事を抱えているのですが、招集されると自分の仕事を放り出して対応する。そうしたことも観光客は知らないと思います。

 でも、観光客向けにどれだけ注意を喚起してもこういうことが起きる。島だけの発信だとどうにもできないことがいっぱいあります。この地域に限ったことではないですが、せめて訪れる地域のことを少しは事前に調べることがマナーの第一歩だと思いますし、少しでも知れば見える世界も広がって楽しさも増します。

常井:観光業界では、コロナ禍があったことで「観光したい」「旅行に行きたい」という欲求はむしろ高まっているという見方になってきています。だから、需要がなくなることはまずありません。しかし、それで肝心の地元が圧迫されるというのは望ましくありません。旅をして「地元を見る、感じる」のが観光ですので、地元の発展を意識した施策がなければ持続可能性が担保された展開にはならないと思います。

稲福今の沖縄観光を見渡すと、作られた観光というか“観光客が思ってる沖縄”が作り上げられていってる気がします。地元の存在が薄まってきている。永遠に残さなければならないというわけでもないですが、観光を踏まえたとしてもせめて地域に寄り添いながら街づくりを進めてほしいですよ。

白石:一時の需要に応えようと、観光客が興味を示すようなものばかりを作っていると、ブームが過ぎ去ったらただの廃墟になってしまうということもよくあります。何かを作るより、今あるものをどう見せるか、伝えるかでその地域の価値がそのまま伝わると思うんです。

 観光客に楽しんでもらうための受け入れしやすくするための施設ももちろん大切だとは思いますが、最終的に思い出に残るのは地元の人たちとの出会いや関わり合い、それを通して知ったその地域の自然や文化です。地域の魅力は人で出来てます。だからこそ、観光で来る人たちにはそこにも目を向けてほしいですね。

稲福:そうですね。絶対に人ですよね、やっぱり。

常井「人」「食」「体験」が観光客を呼び込む、そしてリピーターを生み出す三原則ですからね。取り組むべき課題は本当にたくさんあります。同世代を中心に問題意識を共有して、学び、発信し、少しでも変化への兆しを作り出すようにしていきたいです。


 「観光立県」を掲げる沖縄の観光だが、コロナ禍にあることを理由にする以前に、戦後の米軍統治、本土復帰後の経済成長を経て、これまでに棚上げし続けてきた課題に目をつむってきた感がある。その“歪み”が次々と表面化しているところに、さらに新型コロナウイルスが猛威を振るっていることで、いっそう状況を深刻化している。これには危機感と焦燥感が募るばかりだ。
 座談会でも言及があったように、これまでのような「地元置き去り」の状態が今後も続くようであれば、沖縄に備わったポテンシャルを回復不能なほどに食い潰してしまうことになるだろう。そうならないためにも、観光による経済発展と県民の暮らしとの双方を考慮した上で“持続可能な”沖縄観光を早急に構築しなければならない。

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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