805日ぶりに帰ってきた奇跡の猫 地域が繋いだ命
- 2021/7/23
- 社会
7月20日、台風6号が沖縄を襲った。暴風が吹き荒れる中、その猫は805日ぶりに元飼い主の腕の中で甘えて鳴いた。奇跡の猫の物語である。
一昨年の4月6日、与那原町東浜の自宅から、飼い猫の「モモ」は普段通りに外に出た。いつもならば夕方に戻ってくるのに、1週間たっても帰ってこない。飼い主の女性(38)は、どこかで倒れていないか、どなたかが保護してくれているのではないかと、無事を祈りながら「チラシ」を作り、周辺の住民へポスティングをした。
「猫を探しています。しっぽが短く、目は青色、人なつっこくて優しい性格です。名前はモモ」
早速、チラシを見た人から連絡がはいった。しかし、残念ながらそれはモモではなかった。そしてその後は連絡が入ることもなくなった。その年の12月、モモの事が気になりながらも、飼い主の女性は仕事の都合で中南部へと引っ越しをした。すでにモモが家を出てから半年以上が経過していた。
沖縄県は、独特の文化、芸能、風習が残る魅力的な土地と言われる一方、野良猫率が高く、残念ながら犬猫殺処分がとても多い。県はその課題を解決すべく、2013年に「飼い主のいない猫対策」(試行版)マニュアルを出している。
内容は、「地域猫活動」(地域住民の合意のもとに、地域住民が主体となって「飼い主のいない猫」に不妊去勢手術を施してこれ以上増えないようにし、一代限りの命を全うするまで、その地域で衛生的に飼育管理を行うこと)の考え方を活用し、地域住民が主体となって取組むこと、「モデル地区」を選定し、自治体が不妊去勢手術等の支援を行うこと、地域コミュニティーの活性化を促す側面からも、各自治体や地域住民が自発的に取組める仕組み作りを構築できるよう検討していくこと、というものだ。
また、今年1月に沖縄県は、「新たな動物愛護管理推進計画で、県動物愛護管理センター(南城市)などが引き取った犬や猫のうち、譲渡が可能な犬猫の殺処分を2030年度までにゼロとする目標を設定する方向で調整している」と発表。2月にはマニュアルを出した。とはいえ、実際、地域住民と自治体との連携はなかなか難しいのが現状だ。そんな中、2021年5月、与那原町では、有志13名で「よなばるネコの会」を発足、野良猫を見守りながら1代限りの命にすべく、地域猫活動の啓蒙・周知を始めた。
時を同じくし、ネコの会の仲間に一本の電話が入った。「カラスにつつかれていた猫のを保護したけれど、自分は犬を2匹飼っていて主人が猫アレルギーなので飼えない。保護してくれる人はいないか」という内容だった。
よなばるネコの会として行うことはTNR(Trap:トラップ捕獲し、Neuter:ニューター不妊手術をし、Return:リターン猫を元の場所に戻すこと)を主としているため、飼うことは出来ない。しかし「地域猫」として保護し、これ以上増やすことのないよう去勢しようと話し合い、手術を予約した。
一方、カラスから猫を救った与那原在住の方(30)のご主人が「そういえば2年くらい前に白猫で青い目の猫を探しているチラシ配っていたよね」と気づいた。たまたま当時のチラシを携帯に残しており、ご主人は早速、迷い猫をインターネットで検索した。迷い猫に関して書かれていたブログとチラシの写真を照らし合せると、猫の特徴が一致、去勢手術をする直前に奇跡的に飼い主が判明した。
モモは805日ぶりに飼い主の元に戻ってきた。「言葉がでないくらい胸がいっぱい。帰ってきてくれた、頑張って生きてきてくれてありがとう。支えてくれた皆さん、世界中にありがとうと言いたい」と飼い主は言葉を詰まらせた。
その後の様子をきくと、「2年前の続きが始まっただけのように普段通りのモモだった。でも子猫のときにしかしなかった私のお腹の上で寝るようになりましたね」と嬉しそうに笑った。
元々、モモは道で迷っているところを保護して育てられた保護猫。愛情たっぷりかけてもらったおかげか、はぐれて野良猫になった2年間も、人なつっこい猫、飼い主からはぐれた猫だろうと、地域住民が見守り続け繋いだ命だった。
沖縄県が掲げる動物愛護管理推進計画の基本理念は「人と動物が共生できる沖縄県をめざして」。だ。「命どぅ宝」が人だけでなく、動物愛護にも実践できる世の中になることを願っている。