世界自然遺産登録目前 やんばるの森をガイドと歩いてみたら

 

 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」が世界自然遺産に正式決定する見通しだ。そのうち沖縄県の行政区分となるのは沖縄島北部と西表島。ここにしか生息しない希少な固有種が数多くみられる沖縄島北部・通称「やんばる」の山々では、果たしてどのような動植物が命を育んでいるのだろうか。ネイチャーガイドの案内で散策してみた。

長尾橋から見下ろす森、森、森!

 参加したガイドツアーは、Endemic Garden H(国頭村)が主催する「ネイチャーガイドと歩く長尾橋ツアー」。やんばる国立公園を見渡せる、国頭村の長尾橋とその周辺を歩く。

「境目がなく森が広がっていますよね」

 そう話すのは、自然解説員の上開地(かみがいち)広美さんだ。長尾橋から北西を眺めた時に世界自然遺産となるエリアを見渡せる。その反対側にあたる南東方向は、世界自然遺産区域を囲む緩衝地帯だ。世界自然遺産推薦地は5段階に区分されたやんばる国立公園内のうち「特別保護地区」と「第1種特別地域」から選定され、それを取り囲む他の区分でさらに保全する形になっている。

自然解説員の上開地広美さん

「(登録が妥当だと)審査したみなさんも、この長尾橋からやんばるの森を見ていたんですよ」と上開地さん。小さい時から気づけば生き物が好きで、これまでずっと生き物の研究を続けてきた上開地さんが現在行きついたのが、やんばるだ。「やんばるほど海も川も森も動植物も全部面白いところは他にないですよ」と、心躍るように話す。

日本の0.1%に多くの生物種がギュッと凝縮

「やんばるの森は日本の約0.1%の面積、例えるならば人間の小指の先ぐらいのところに、国内で見られる動物のうち野鳥は半分以上、カエルは4分の1が住んでいます。野鳥は年間で300種類以上見られます。そのうち9割以上は渡り鳥なんです。アカショウビンは夏になると南の国から沖縄に来て、子育てしたら帰ります。冬になると北の国で繁殖した鳥がやってきます。年間を通して入れ替わるんですね。だからそれだけの鳥が見られます。1年中やんばるで見られる鳥は、全体で30種類ぐらいです」

作りかけのノグチゲラの巣

 上開地さんは「渡り鳥は海を渡って繁殖地と越冬地を移動するため、両地域が豊かな環境である事が重要です。やんばるは渡り鳥にとっても大切な場所です」と説明を加えてくれた。

 こうやって鳥は海を渡って、各地からどんどんやんばるにもやってくる。では、海を渡れないカエルやヘビなどはどうだろうか。

「大陸から島として分かれた後、独自の進化を経て、その島だけに住む種ができたり、昔の姿のままそこで生き残った『遺存固有種』というものがあります」

 カエルの固有種はナミエガエルやオキナワイシカワガエル、ハナサキガエルが挙げられる。亜熱帯の沖縄に住むカエルは冬眠の必要がなく、冬に繁殖する種も多くみられるという。

「なので、やんばるは冬でもいろんな生き物の鳴き声が聞こえるんですよ」

いろんな虫ともたわむれよう!

 木々が伸び立ち、鳥たちが飛び交う空だけではなく、足元も注意深く見て回る上開地さん。「これはケナガネズミの食痕ですね」

 ケナガネズミはやんばるや奄美大島、徳之島の固有種で、しっぽを合わせると50~60センチにもなる日本最大のネズミで、絶滅危惧種だ。
 松ぼっくりなどを食べるが、その食べ跡の見た目から「森のエビフライ」と言われている。

衣の感じも良く出ている「森のエビフライ」

 上開地さんは、虫も大好きだ。というか、全ての生き物が好きなのだが、中でも昆虫が特に大好きだという。

 木の幹に沿って動く何かに手を差し伸べて戻ってくると、そこには「嫌われがちな虫」の代表各ともいえる毛虫が。触ったらかゆくなったりかぶれたりするなどのイメージがあるが、しかしそれは人間の勘違いだということを知る。

「毛虫の種類が100あれば、そのうち毒を持つのは2、3種類ぐらいです。ただ、毒を持つ幼虫が毛虫なのでその印象が付いているだけです」

ルリモンホソバという蛾の幼虫。ふわふわしていて気持ちがいい。

「虫は葉っぱの上だとか手が届くところにちょこんといて触れ合えますよね。身近な生き物として好きです」

リュウキュウルリモントンボと戯れる

 目を凝らして耳を澄ますと、ありとあらゆるところに生き物がいるのが分かる。ただただ歩いているだけだったら、絶対に見逃してしまいそうな昆虫も。

葉っぱに擬態しているリュウキュウトビナナフシのメス

 結局この日は、約3時間のツアーながら合計で100メートルも歩くことがないほど至る所で立ち止まるほど次々と発見があり、さまざまな動植物の姿を見ることができた。

改めて目を向けたい“世界の宝”

 沖縄本島北部・やんばるの森は、もしかすると沖縄に住む地元の人々にとっては、日常に溶け込んだ存在というか、あまり珍しさや素晴らしさが見えにくいかもしれない。しかし、世界的に貴重な動植物が多く生息するが故に“世界の宝”として認められることとなった。期日も迫る世界自然遺産登録をきっかけに、改めてやんばるに目を向けると共に、保護保全・活用の在り方を考える機会にしてみてはいかがだろうか。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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