貧困対策には「子どもの権利」保障の視点不可欠 沖振計にツッこむ 〜貧困問題編

 

緊急対策事業予算のその先は

 2016年度から沖縄振興予算に計上される「沖縄子供の貧困緊急対策事業」の予算措置が、2021年度で最終年を迎えているが、その後の具体的なプランをまだ国や県が示しておらず、先が見えていないことも大きな懸念の1つだ。
 安次富さんは「今現在実際に通っている子どもたちがいる事業所の運営は、予算に左右されてしまわざるを得ない」と指摘する。
「運営費がなくなって急に子どもたちに対して『明日からは開所できない』なんて言えないですよ。でも、下手したらそうなってしまう状況なんです。予算の都合で、子どもたちの人生が変わってしまう」

 また、「貧困」という言葉についてまわるネガティブ・イメージについても憂慮している。「貧困問題が報道などでもフォーカスされたことで前進したことも多々あった」としつつも、問題が顕在化してある程度の期間が経過した現在は、既に違うフェーズに移行している。
 支援を必要とする人たちが、貧困というレッテルを貼られることに拒否感を持ち、自ら支援を敬遠するケースも多い。この場合、保護者の判断によって本来は受けられるはずの支援がストップされる場合もあるため、結果的に子どもの権利が蔑ろにされてしまう。

「多くの場合、貧困は子どもたち自身に帰属する問題ではありません。環境や携わる大人たちとの関係も含めて、かなり複合的な原因があります。そうした中で、支援する側が『かわいそうだから』とか『子どもは被害者だ』といった認識だけで事業に取り組むべきではないんです。“施してやる”というマインドセットだけではいつまで経っても社会の問題としては解決しない。
 全員が享受して当然の権利を、なぜ受けられない子どもたちがいるのかということに向き合わなければ、子どもたちは大切なものを失ってしまう可能性があります。県には広い意味での子ども権利をどう守っていくかということと、そのための『覚悟』をきちんと明示してほしいと思っています」

支援業界市場化への懸念も

 困難を抱える6〜18歳の子どもたちの居場所づくりと学習や食事、そして保護者も含めた包括支援に取り組むNPO法人「Learning for All」(東京都)の子ども支援事業部に所属する県出身の宇地原栄斗さんも、子どもたちの貧困の問題解決には「生きづらさを抱えている世帯や子どもたちに、権利保障として行なっていくことがまず大事なことです」と強調し、沖振計に権利の視点が欠けていることを指摘した。

 その上で、懸念の1つが支援業界の“市場化”だと話す。行政からの委託で事業に取り組む場合、色んな自治体で競争入札が行われ、その入札金額に応じて委託先が決まっていくのが現状だ。

「市場化がことさら“悪”と言いたいわけではないし、実際コストカットをしていくことも重要です。しかし、競争入札だと団体同士の横の繋がりに支障がでてしまうこともままあります。本来ならば支援する子どもたちのためにも連携すべきですが、金銭的な競い合いの要素が多分に入ってくると、本当の意味で子どもたちのためにならないのではないかという心配はあります」

 また、先述した安次富さんと同様、事業を民間やボランティアに丸投げ状態で任せてしまっている現状については「民間のリソースを使うのは専門性や民間ならではの発想もあるので、全く否というわけでないです。しかし権利保障という観点からみると、本来であれば行政がすべきなんです。現状は残念ながら、行政と民間とのバランスはとれていない」とアンバランスさを指摘。
 支援を必要としている当事者たちへの向き合い方については「当事者がいないテーブルで何を議論しても必要なことがわからない。今後、当事者たちの声を拾い集めて政策にどのように入れ込んでいく予定なのかもきちんと示すべきです」と提言した。

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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