貧困対策には「子どもの権利」保障の視点不可欠 沖振計にツッこむ 〜貧困問題編

 

「子どもの貧困問題は解決すべき大きな課題ですが、その前提として最も必要なのは『子どもの権利を保障する』という非常に根本的な視点なんです。骨子案には、そうした『権利』を意識した視点が欠けているように思います」

 県内各分野の有志で集まって「沖縄振興計画」(以下、沖振計)について議論している「沖縄未来提案プロジェクト」。その貧困対策部会に参加し、子どもたちの学習支援に携わる安次富亮伍さんは上記のように述べた。

 沖縄県が今後10年の振興についての方向性や基本施策を明示する沖振計は、2022年3月末で現行計画が10年間の期限を迎えるのを前に、新しい骨子案が公表され、現在中身を議論している真っ最中だ(骨子案全体の傾向については、コチラの記事で)。
 本稿では、県内の社会的問題の中でもとりわけ大きな課題である「子どもの貧困」について論点を絞る。子どもの貧困というワードが定着して久しいが、これまでに何ができて何ができていないのか。そして今、これから何が必要なのか。

県の施策展開のイメージ図(沖縄県「新たな振興計画(骨子案)」より)

経済的事情“だけ”ではない

「本県の子どもの貧困問題は極めて厳しい状況にあり、喫緊の課題である。貧困の連鎖を断ち切るためには、親の妊娠・出産期から子どもの社会的自立までのライフステージに対応する切れ目ない支援体制等の仕組み、保護者の所得向上等を含めた社会政策と経済政策の一体的推進等が急務である」(『新たな振興計画(骨子案)』の「第2章 基本的課題」より)

 子どもの貧困問題について県は、課題設定として上記のように述べている。

「経済的な理由ももちろん根っこにはありますけど、あまりにもその側面だけにフォーカスしてしまうのはもったいないかなと。経済的事情と子どもの権利の保障とはレイヤーが違う問題なんです。なので、経済的事情に左右されない形の権利保障をどういう風にやっていくかということが非常に重要なポイントになります」

 子どもたちの居場所づくりで、生活・学習・就労を支援する那覇市のNPO法人沖縄青少年自立援助センター「ちゅらゆい」で事業統括マネージャーを務める安次富亮伍さんはこう語る。
 子どもの貧困と一言で言っても、部活に入りたくても道具などが買えずに入部できないような経済的な面、世帯として社会との繋がりが希薄という社会関係的な面、家庭教育が上手くできていない文化的な面などさまざまな濃淡がある。安次富さんは「貧困=経済的事情」という構図に単純化せず、保障されるべき子どもたちの権利をスタート地点として、多面的に取り組み方や方針を打ち出すことで、子どもだけでなく大人の社会へも波及すると考えている。

「それがひいてはダイバーシティとか多様性ということにも必ずつながっていくと思います。本当の意味での『誰もが生きやすい社会』という共通の枠組みを形成していくことにもなります」

拭えぬ現場への「丸投げ」感

 貧困という大きな課題に直面し、行政も事業者も手探りのまま解決に向けて臨む状態が現在まで続いている。「貧困解消」というゴールは1つだが、そうした抽象度の高い課題解決へとたどり着く方法は考える人の数だけある。そうすると多種多様な取り組みが生まれるというメリットがある一方で、それぞれの事業を評価するための一定の基準を確立することが困難にもなる。
 こうした状況下で多くの事業を走らせていくことで、質的なバラつきが生まれてくるのも避けられないのが現状だ。子どもの居場所は現在県内に200箇所以上あり、役割や規模についての考察が必要な時期に差し掛かってきているという。

「もちろん全てを行政がやるべきということではありません。子どもたちにはみんな教育を受ける権利、きちんと成長していける権利が等しくある。そのことに基づいて、子どもたちに支援すべき施策には公金を使い、公共で実施する意味と必要性についてはもっと議論を詰めて、行政と民間がそれぞれやれることとやれないことのボーダーを緩やかにでも引いていかなければならないと思います」

 こうした状況を踏まえつつ、安次富さんは「今だとどうしても、行政に配置された支援員、民間やボランティアの現場に“丸投げ”している感が強いと言わざるを得ないですね」と付け加える。
 貧困解消というゴールに向けての官民での具体的な議論や考察が進まない要因の1つには、教育機関ごとで管轄が県と市町村とに別れ、貧困が教育や福祉の分野に広くまたがる課題であるため管轄が不明瞭になっていることなども含め、いわゆる行政の「縦割り」構造によるデメリットが依然としてある。このため、小中高、そして大学にいたるまで一貫して生活・教育・就労などを多面的に支援する体制は現在確立できていない。それゆえに子どもたちが年齢を重ねてライフステージが変わっていくことも踏まえた中長期的なスパンで個々人に対応するという作業は、どうしても“現場”が受け持たざるをえない。

 これまでの県の対応も、そして沖振計骨子案にも、連続性を持って子どもたちを支援していくためにどのような制度設計をしなければならないのか、という視点が欠けている。「制度として子どもたちの権利を守るものをどう構築していくのかということについては、もっと分量を費やして、具体的な記述があってもいいと思います」

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