宮古島でこんなにワイン飲めるの? 独自の“ナチュール文化”事情

 
ナチュールの魅力について話す砂田さん

大らかに楽しめることの豊かさ

 『自然派ワイン入門』(エクスナレッジ)によると、ナチュールワインとは「少なくともオーガニックの基準を守った畑で栽培されたブドウを、添加物を加えたり成分を除去したりすることなく発酵させて造ったワインで、瓶詰めのときに亜硫酸塩を少量加えることだけが認められている、古きよき『発酵したブドウジュース』としてのワインの原義に最も近いもの」。
(※自然派ワインには様々な規定やジャンルがあり、細かく定義するのは困難。「ヴァン・ナチュール」も自然派ワインの中の1ジャンルであり、「ナチュール」という呼び方も、あくまでファンが全体的な愛称として使っているものだ)

 添加物を加えないため、少し前までは味の不安定さもあった。しかし最近では味の安定性が増したこともさることながら、ナチュール自体の価値が認められたことでクセや不安定さも選択肢の1つとして成立するようになった。

「そういったところに、お酒を大らかに楽しむことの豊かさがある」(砂田さん)

日常に寄り添うワインを

 近年は認知度とともに価格も上がり、これまで普通に買えてたボトルが入手しづらくなることもあるという。鴇澤さんは「2000年代後半くらいまで店には、今では希少で全然買えない“スター生産者”のボトルが考えられないくらい山積みにされていた」と懐かしそうに振り返る。
 2014年にボックリーの店長になってからは、宮古島のアピールもしながら県外の店やインポーターと関係性を構築し、宮古島内でのナチュールへの理解や広がりをさらに促した。「自分が飲みたいのもあったけど(笑)」。最近は「宮古島でナチュールが飲めると聞いて来た」という客も増えている。

 2人が口を揃えて言うのは「決して自然派、ナチュールを“売り”にしてきたわけではない」ということだ。

 砂田さんは「ナチュール好きな人とは、一気に心許せる感じになる。ワインが共通言語になるのが良い所。スノッブじゃなくて、あくまで“オタク”的なベクトルなのも素敵だと思う」と魅力を語り、「要はお酒好きな、愛すべき人たちの集まりという雰囲気が心地良い」と目を細める。

 「基本的には島の人たちに楽しんでほしいというスタンスでずっとやっている」と鴇澤さん。「美味しいという人たちが増えると、単純に嬉しいし楽しい」。
 国内のワイン生産者が増えてきていることもあり、最近は国内ワインも積極的に提案する。「重厚さや偉大さだけにフォーカスするのではなく、年ごとのブドウの出来や醸造家の個性と技術、農産物としてのワインを日常に落とし込んで、色んな美味しさが楽しめることを伝えたい。幅が広がれば、生産者や売り手も後に続くことができる」と業界の持続性にも意識を向けている。

 日々楽しんで飲むという宮古島の土壌で作られた島のナチュール文化は、自然派ワインよろしく正に“自然体”の島に寄り添って醸成されてきたからこそ、今の形になったように思える。飾らず、格好をつけずに、今日も島ではワインのボトルが空いている。

<店舗情報>

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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