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各教員の努力が結合した双方向オンライン授業 自粛時も学びをカバー 興南学園
- 2020/5/18
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新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、沖縄県内の学校も他府県と同じように休校措置が取られている。学校再開まで、児童生徒が授業を受けたり、友人と顔を合わせたりすることができず、場合によっては問題を抱える家庭環境の子を学校側でフォローすることができないなどの問題が生まれている。
そんな中、興南中学校・高校(学校法人興南学園、那覇市)では、各教員が自主的なオンライン授業や学級活動などの取り組みを進めており、その活動を学校側も組織として仕組み化して子どもたちの学びを支えている。
子どもたちがオンライン授業で覗く、スマホの画面の向こう側の先生たちはどのような取り組みがされているのか。現場の様子を見せてもらった。
画面に映る70人の顔と部屋 チャットに記名で出席確認
「みなさんこんにちはー」
誰もいない教室の窓際に座り、パソコンと電子黒板に映る約70人の生徒たちに呼びかけるのは、社会科教員の宇栄原健夫さんだ。この日の4時間目は高校3年生の複数クラスの地理。朝鮮半島についての授業だった。
生徒たちはみんなスマートフォンを使って授業に臨むという。スマホが一般的になった2010年前後の段階で、彼ら彼女らは小学3年生ぐらいだった。インターネット端末の主役は、物心付いた時から一にも二にもスマホだ。
私立校なので、生徒は県内各地に散らばって住んでいる。画面の背景は当然それぞれの自宅で、着ている服も制服ではなく普段着だ。一人ひとりの画面だけを見れば、学校という雰囲気はないが、クラスメイトの表情がそこに集えば、それだけで学校のような雰囲気を感じられなくもない。高校生という年頃もあり、画面に映る自分の髪型を気にする素振りを見せるのも、一つのコミュニケーションが成立している証のように思える。
学校HPからパスワードでログインする。出席確認は、画面右側に表示されるチャットルームに、生徒自らクラス番号と氏名を書き込むことによって行う。このチャットルームは授業中の質問や生徒の回答を受け付けており、生徒がみんなで見ることができる。一方、書き込みを他の生徒に見られないように非表示設定で行うことも可能だ。恥ずかしがり屋の生徒は、そうやって先生に文字を伝える。
文字だけではなく、音声でもコミュニケーションが取れる。実際はそこまで声に出して質問する生徒は多くはないというが、発言した途端に70人近い生徒が自分の顔を見ると思うと、物怖じする生徒がいるのも不思議ではない。通常の教室での授業でも似たようなことが言えるだろう。
とはいえ、70人近い生徒のスマホマイクをオンにすると、70家庭分の環境音が一気に混ざってものすごいノイズになってしまう。基本的には先生の側で全員分をミュートにして、発言する時は各自がミュートを外して声を出す。
授業が終わってもしばらくはオンライン状態を維持する。授業が終わっても質問がある生徒に応えるためだ。しばらくすると女生徒の声がスピーカーから響いた。
「先生、今ヒマですか?」
「ヒマではないよ(笑)」
産業や貿易の用語解説が続いた。
家庭の協力で成立
同校の場合、高校生だともれなく生徒が自分のスマホを所持しているため、基本的には生徒の努力次第でいつでも全員が顔を合わせることができる。
しかし、中学生となると事情が違う。スマホを所持する子、しない子がいるため、全員そろっての授業の実現が難しい。それに対応するため、その日の授業は学校HPからいつでも見られるようにアーカイブ(保存)しておき、親のスマホなどから時間差で授業を見て、課題を提出するといった方法を取っている。学校だけではなく、家庭の理解や協力の上で成り立っている。
教員一人ひとりの「なんとかしなければ」
これらの取り組みは、教員一人ひとりの「なんとかしなければ」という思いから広がっていった。宇栄原教諭は「とりあえず何かやってみようという思いでした」と話す。そこで最初に始めたのが、YouTubeに授業の動画をアップして生徒の学びをフォローする試みだ。同僚の藤崎大志教諭と2人で、生徒たちを思い浮かべながらスマホカメラのレンズに目配せをしながら授業を進めていた。
4月の中旬から各自が動きを見せて、早い先生は下旬にはオンライン授業を実行していた。このような状況に学校側も対応。4月30日には学校HPにオンライン授業へのリンクを整備し、5月11日には中高全クラス一斉に時間割通りの授業を実施、生徒皆に同じ学習環境を整備するに至った。21日はついに始業式だ。
同校の教頭は「学校として組織的に全生徒へ授業ができないかとの思いでした。私立校としてはサービスの提供という側面もあります。スケジュール的にはハードでしたが、先生同士協力して(端末やソフトの使い方など)教え合っていました。フットワークが軽かったと思います」と話す。
宇栄原教諭は「学校単位で独自に決定できるのは私立の強みだと思います。判断を下す(校長や理事長といった)人が現場にいるのは大きいです」と振り返る。
これらの対応は保護者にも好評で、学校にお礼の電話がかかってきたほどだったという。学習面のみならず、休校中の生活リズムが整ったというメリットもあった。
中学校では8時半、高校では8時45分に、オンラインでのショートホームルームが始まる。いつもと変わらず、毎朝の「おはようございます」で1日の始まりを告げる。
学校再開待ち望む生徒「せめて友人の顔が見られる」
通常時の対面授業と比べると、細やかなコミュニケーションは難しい。宇栄原教諭は「一気に全員の顔やしぐさを(全体的に)見ることができないため、リアクションを計りながらの授業組み立てができない」と課題を挙げる。
しかしそれでも生徒と生徒、教師と生徒のつながりを保つことができた。中学社会科を担当する知念千裕教諭は「(コロナの)非常時でも、単に課題の処理だけではなく、双方向で授業できるのは良い」と、リアルタイムでつながる双方向性をメリットとして強調する。
そして何より、多くの生徒自身が学校再開を待ち望んでいる。高校の生徒会長を務める仲村篤紀さん(3年)は「休校期間中はクラスのみんなと会うことはできないですが、せめて顔は見られます。休校になって(生徒としての観点では)メリットは一つもないです」と話す。そして、続ける。「学校のみんなが好き。人が大好きです」。
オンラインの画面越しでは埋め合わせることのできない、人と人同士の笑顔の交換。教室が賑わいを取り戻し、学校が学校に戻れるまで、あと少しだ。