県議選 選挙を左右する「米軍ファクター」に気をもむ陣営
- 2020/5/17
- 政治
6月7日投開票の沖縄県議選は告示(5月29日)まで2週間を切った。出馬を予定する各陣営の準備が進む中、米軍嘉手納基地は5月15日、北谷町内で発生した強盗事件の容疑者として陸軍兵と軍属の男2人を確保したと発表した。
沖縄では米軍関係の事件・事故がときに選挙戦を左右するほどの影響を及ぼしてきただけに、その動向に選挙関係者が細心の注意を払う。
今回の事件の影響は限定的なものになりそうだが、「これ以上何かが起こることは勘弁願いたい」と神経をとがらせる陣営関係者は少なくない。
身柄は米側、任意で捜査
北谷町の強盗事件は5月12日夕刻、国道58号沿いの両替店で起きた。外国人風の男2人が店員に刃物を突き付け、690万円を奪って逃走し、店員に幸いけがはなかった。逃走直後の現場には沖縄県警の捜査員のほか米軍のMP(憲兵)の姿もあり、米軍関係者も対象に捜査が進められていることをうかがわせていた。
3日後の5月15日、米軍嘉手納基地は強盗事件の容疑者2人が同基地に住む陸軍兵と軍属だとする声明を発表。捜査について沖縄県警と緊密に連携・協力しており、「もし容疑者が犯罪行為に関与していることが判明すれば、彼らは責任をとることとなる」との見解を示した。
本来であれば、容疑者が確保され無事に一件落着…となるはずだが、この事件がやっかいなのは容疑者2人が軍人と軍属という米軍関係者で、ともに日米地位協定で守られる身分を持っている点にある。
どういうことか。日米地位協定では、今回のように公務外の米軍関係者が容疑者となる事案については、日本側に裁判権があるとされている。だが、米軍が容疑者の身柄を確保している場合は、起訴されるまで日本側に引き渡さなくてもいい決まりになっている。
例外的に殺人や強姦といった凶悪犯罪については、日本側が起訴前の身柄引き渡しを要請した場合に米軍が「好意的な考慮を払う」ことが日米で合意されており、これまでに5件の事件で起訴前の身柄引き渡しが実現している。
今回の強盗事件はこの合意に該当するケースではないとみられる。沖縄県警は容疑者を拘束できず、取り調べは米軍の協力を得ながら「任意」という形にならざるを得ないわけだ。
ただ、関係者によると、沖縄県警は今回の事件で身柄引き渡しを求めず捜査を続ける方針で、身柄を巡って政治問題化する事態は避けられそうだ。15日に嘉手納基地が発表した声明でも、県警の捜査に米軍が協力することが強調されている。
そのため、県議選のある立候補予定者は「選挙区外での事件とはいえ、米軍関係なので気になっているが、何か影響が出ることはないだろう」と見通している。
空気が一変した前回県議選
ただ、沖縄で選挙を控える関係者が米軍絡みの事案に過敏に反応してしまうのも無理はない。それが有権者の投票行動に影響し、選挙結果に影を落とす可能性があるからだ。現に2016年6月の前回県議選では、直前に起こった痛ましい事件が選挙戦の空気を一変させた。
元米兵で軍属の男が女性を暴行して殺害し、恩納村の山林に遺体を捨て去ったのは16年4月のことだ。この事件は県議選告示が迫る5月半ばになって明るみになり、県民に大きな衝撃を与えた。
当時の県議選は、翁長雄志知事(故人)を支持する共産、社民などの「オール沖縄」勢力と、政権与党の自民など保守勢力のどちらが多くの議席を確保するかが最大焦点で、全国的に注目された。結果は翁長氏の支持勢力が改選前より議席を伸ばす形で過半数を維持し、大勝した。
「逆風どころか、暴風だった」
当時を知る自民関係者は事件の影響をそう振り返る。米軍絡みの問題が起こると批判の矛先は政府に向かい、自ずと政権与党への風当たりは強くなる。
この関係者は「誰が見ても許せない犯罪だったが、構図としてわれわれの側のせいになってしまう。選挙運動の質と量で勝負してもどうしようもなかった」と付け加えた。16年6月の県議選を巻き込んだ「暴風」は、その1カ月後にあった参院選にも及んだ。
不確定要素、結果予断できず
その後も、2017年10月の衆院選では公示直後に東村高江の牧草地に米海兵隊の大型ヘリが不時着・炎上する事故が発生。陣営関係者はその都度対応に追われ、戦略の変更を迫られてきた。
告示まで2週間を切った今回の県議選は、新型コロナウイルスという不確定要素の影響で陣営のアピール活動が制約され、投票率低下も見込まれる。結果は予断を許さない。
「新型コロナで試行錯誤を強いられているのはどの陣営も同じ条件下だが、米軍の問題は起こってしまえば場合によっては特定の候補を勢いづかせ、特定の候補を悩ませることになる。こればかりは不可抗力だ」
本島中部の陣営関係者はそう話す。
米軍事案という、もう一方の不確定要素に気をもむ日々はしばらく続く。