【バー×美容師コラボ企画】withコロナ時代の新しいカタチ「オンライン美容室」

 
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第一回オンライン美容室の様子

『こんな時代だからこそ何かできないか』

 緊急事態宣言直後から今にかけて、こういったやりとりをあらゆるところで耳にするようになった。

 こういった声があがるのは「afterコロナではなくwithコロナ」という予測に対し、多くの人が同意・覚悟しているということなのだろう。そんな人々にとって、今起こっていることは「時期」ではなくまさに「時代」なのである。

 withコロナ時代を受け入れながらも、今まで培ってきたスキルで「何か」したい。そんな想いを抱く異業種のふたりから、新たな美容室のカタチ「オンライン美容室」が誕生した。その全貌を今回はお伝えしたい。

オンライン美容室とは?BAR×美容師の想いから生まれた、新たな美容室の在り方

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左:海小屋cafe&barオーナー高畑浩二/右:EIGHT−okinawa− 新都心店店長:工藤祐也

 こんな時代だからこそ美容師としてなにかできないかと思う工藤氏と、全国にいるお客さんをどうにか笑顔にしたい高畑氏。ふたりの想いを掛け合わせ、“何かできないか”と模索した結果「オンライン美容室」が誕生したのだ。

 漠然としたアイデアだったが「案ずるより産むが易し」の精神ですぐさま話し合い、形にした。決まった概要はこうだ。まず、高畑氏の海小屋公式SNSを通じて「美容室に行きたくても行けない人」を募集する。集まった人に対し、何をやりたいか(染色なのかカットなのか等)を確認。それに応じた準備物を工藤氏が考え、準備してもらった上で開催日を決め、オンラインで教えながら一緒に行なっていくという方法だ。

 第一回目は髪の毛を染めたいけど、自分で染めたことがない」という女性をメインゲストとし(仮にA子とする)、その合間に眉毛カラーをやりたい女性(B子とする)にレクチャーすることとなった。

 自分で髪の毛を染めたことがある人は分かると思うが、自分で染めるというのはなかなか困難だ。見えない後頭部などもムラなく染めるのは難しく、市販のパッケージの箱を見たところで、素人目にはどんな色に染まるのか検討もつかない。そもそも、髪質や染まるペース(時間)も人それぞれ違うのだ。何事もそうだが、自分でやってみて初めて「プロの仕事」が理解できるものである。

 今回、オンラインヘアカラーのために行った準備は3つ。一つ目にオンラインを通し、髪質と希望色をヒアリングした。二つ目に、ヒアリングを通して分かった「希望色」を極限まで再現できるカラー材をゲストに事前に購入してもらった(今回は2種類のカラー剤を指定)。そして三つ目は、工藤氏自ら自身の髪の毛を自分で染めてみるというものだった。素人が染めるとどんな不具合が生じるのかを検証するためだった。

 三つめはなかなか体を張った事前準備だが、やはりここは髪の毛のプロとして「市販のカラー剤であってもなるべく美容室のクオリティを出したい」というプロ意識があったそうだ。自分でやってみて「素人が塗り残しがちな場所」を見つけるとともに「カラー材に髪の毛が絡まりやすい」という課題も見つけた。

オンライン美容室開催日当日 事前準備が成功に導いた。

 そんなわけで、オンライン美容室第一回目が開催された。

 開催はSNSにて告知しており、見物客も含め7人が集まった。まずメインゲストに準備してもらったカラー剤を塗布してもらうところから始まる。

 まず、工藤氏が自身の髪の毛を染めた時に生じた「髪の毛が絡まりやすい」という課題を解消するために、予めトリートメントで髪の毛が絡みにくい状態をつくってもらった。その状態から全体にカラー剤を塗布してもらうことで「絡まる問題」はクリアした。

 そしてカラー剤塗布では、全体に塗ってもらった後、残りやすい箇所・塗りづらい箇所についてを「この辺はこうやって塗って」「ここ見落としがちだからしっかりね」など、ジャスチャーを交えながら指導した。工藤氏は、実際に美容室で接客するよりも多くのコミュニケーションが必要だったと話す。

 というのも、画面越しにムラがないか等を目視で確認することが難しいため、どうしてもコミュニケーションと直感に頼る形になってしまうのだ。現場で働くよりも高度な「伝える力」が必要となった。

 ただ、コミュニケーションを用いながらもひとりに向き合うこのスタイルは、YouTubeを見ながら髪を染めるよりも限りなく「リアル美容室」に近い。接客を重視する工藤氏のスタイルにも合っていた。

 工藤氏はA子が髪の毛を洗うタイミングを活用し、眉カラーのB子にワセリンの塗り方を指導した。すると閲覧者として参加していた女性も「前髪を切りたい」という気持ちになり、その場で参戦。工藤氏は機転を利かせ、ハサミ(すきバサミではなく普通のはさみ)と割り箸(まっすぐカットするための定規のような役割)を用いて、前髪カットをレクチャーした。

 そんなこんなで、高畑氏の場づくりと工藤氏の指導のもと、第一回は成功に終わった。

ヘアカラー後 沖縄ニュースネット
ヘアカラー後の写真(A子提供)

 第一回の開催にも関わらず、工藤氏の抜かりない事前準備と高畑氏のフォローにより3人の女性が結果に満足して終わる形となった。見るだけのつもりで参加した人も、「見たことを活かして、後日自分で染めてみる」と言っていたそうで、高畑氏・工藤氏は新たな挑戦の成功を喜んだ。

 最後に、第一回を終えてみた感想をふたりに伺った。

工藤氏「思っていた色を再現することができたので良かったです。ただ、今回のメインゲストに実は一度だけ海小屋で会ったことがあるので、髪質に関してちょっとだけ事前情報があったんですよ。そこは大きいですよね。全然会ったことなかったら、精度は下がるんじゃないかな」

 一度、酒場で会っただけの人の髪質をしっかり覚えているところはさすがプロだと感じたが、数を重ねてみないと「成功」とは一概に言いにくいようだ。

高畑氏「僕がやりたいって気持ちをぶつけた時に、すぐにマリオさん(工藤氏のあだ名)が応じてくれたのがとても有り難かったです。しかも第一回目から成功して、遠くで自粛を頑張ってるお客さんが笑顔になってくれたので、嬉しかったですね。第二回も、実はさっそく来週開催予定なんですよ(笑)」

 withコロナを覚悟するふたりは緊急事態宣言解除になった今もなお、未だ東京や北海道など自粛を余儀なくされている地域のお客に向けて、引き続きオンライン美容室を提供していくそうだ(第一回のゲストも東京の方だったらしい)。

 ちなみに料金は完全無料(材料費のみ自己負担)。コロナ禍で不安を抱える人に対し“美容師としてできることがある”だけで満足だから、とのことだった。今後もお金をもらう予定はないらしい。

 第一回の後、工藤氏は東京に住む女友達に「彼氏の髪の毛を切るためのレクチャー」をするなど、日に日に精度を磨いている様子。YouTubeとリアル美容室のちょうど中間を目指したいと話し、そしてそれでも「リアル美容室がやっぱり一番だと思ってもらえれば嬉しい」と胸の内を語った。

 取材を通して「オンライン美容室」という選択肢は、たとえば妊婦さんや運転する人にとっての「ノンアルコールビール」みたいなものなのかもしれないと思った。ジュースよりは全然よくて「思ったより美味しい」「本物そっくりな味」は、満足度はあるものの、やっぱり本物の生ビールが一番だよね、っていう存在なのではないだろうか。

 「リアルが一番であることを前提に、需要を“その時出来る方法で”最大限満たしたい」、そういう気持ちこそが制限ありきのwithコロナ時代における、新たなアイデアの創出方法なのかもしれない。

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三好 優実

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香川県出身・沖縄移住歴6年目のフリーランス編集者・ライター。主に沖縄県内の観光・グルメ・経済について執筆。シリーズ本「香川県あるある」の著者。

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