ボランティアで集めたゴミの末路・・・‘善意の行き違い’をすり合わせる「マナティプロジェクト」
- 2020/5/16
- 社会
達成感に満ち溢れるゴミ拾いのボランティア活動。褒められるべき行動である一方、適切な手順が行われず、その後のゴミ処理に地元民が頭を悩ませているケースがある。
知識不足が引き起こす‘善意の行き違い’というジレンマ。漂着ごみに対する問題、処理とリサイクルの難しさなどの地域の課題を自分ごとにするべく、市民参加型の「マナティプロジェクト」が発足した。
その「マナティプロジェクト」を立ち上げたのが、環境問題に向き合う社会起業家の金城由希乃さん(ジーエルイー合同会社)だ。金城さんに話を訊いた。
漂着ゴミの問題点
ゴミは我々が思う以上に種類が多岐にわたる。
各地自体で分別ルールが異なるのはもちろん、家庭ゴミか事業ゴミなのか出た経緯によっても処理方法が変わってくる。決まった曜日に回収してくれるのは家庭ゴミで、それ以外はオートマチックに処理してくれるわけではない。
「ビーチクリーンなどで拾ったゴミは‘漂着ゴミ’に分類されます。分別されていない場合は回収すらできません。しっかり分別して事前に行政と連携が取れている場合は問題ありませんが、個人がゴミ拾いをして、『集めておいたから誰かが処理してくれるはずね~』と分別もおろそかに砂浜に置きっぱなしにしてしまった場合、善意とは言えこれは単なる粗大ゴミ化しただけになってしまいます。管轄している自治体や事業者の負担が増えるか、台風で波にさらわれ風化されるのを待つのみです」
離島の漂着ゴミ問題はさらに深刻だ。
「施設や人手不足のために処理能力が低く、ゴミを島の外に移動する必要がありコストも掛かります。善意の結果、ゴミボランティアが地元の人にとって負担になってしまう誤算が生じます」
それならば、行政の予算でクリーンアップの仕組みを整えたらどうだという声も聞こえてきそうだが、これも一筋縄ではいかないのである…
低い関心から政策につながらず、予算が当てられないゴミ処理分野
日々の暮らしに直結しているのにも関わらず、ゴミ問題は多くの人々にとって優先順位が低い。
公共的分野である環境問題よりも、家庭や仕事と言った私的分野に目が行きがちで、政策も経済・福祉・教育が花形だ。
「『関心が無い→政策の議題に上りにくい→予算が付かない』という構造的問題に陥っています。このような関心の無さが引き起こすゴミ問題は、世界中で見られるパターンです」
経済や観光の発展と裏腹に、その副産物であるゴミ問題には光が当たらず、現状は悪化するばかりだ。解決に導くためには『予算』『人手』『知識』の3つの不足と向き合うことが鍵となる。
「政策になりにくく予算が付かない中で、『漂着ゴミも行政が処理すれば良い』というのは綺麗ごとなんです。低い関心が生んでしまった構造の中で出来ることをやる。そして人々の関心を高めて構造を変える流れになればと思っています」
実践の中でゴミ問題への理解を深める「マナティプロジェクト」
こういった問題を幅広く認識させようと発足したのが、市民参加型プロジェクトの‘マナティプロジェクト’だ。市民は3つの方法で参加することができる。
《マナティパートナー》
「各地域にいるパートナーさんの所に行って‘マナティバッグ’というゴミ袋を受け取り、その地域の分別ルールも教えてもらいます。各々でゴミ拾いをしたあと、マナティバッグをパートナーさんに返却して適切な方法で処理してもらいます。
マナティパートナーに参加するには500円が必要です。これは運営や最終的なゴミ処理費用などに充てられています。持続的な社会を実現するためにはお金が掛かるというのを知って欲しいという狙いもあります」
《マナティホスト》
「ツアーとしてマナティを体験してもらうプログラムです。『看板犬とビーチマナティツアー』『島散策を楽しめるネイチャーツアー&マナティ』など、ホストと一緒にビーチクリーンを行う、アクティビティ的な要素が大きいです」
《マナティスポンサー》
「お金を払って‘マナティバッグ’というゴミ袋を購入して、それを受け取った人に代わりにゴミ拾いをやってもらうという仕組みです」
また、海ゴミという課題に対し、持続可能なビジネスで解決を目指す「プロジェクト・イッカク」(日本財団・JASTO・リバネス主催)に、マナティプロジェクトを運営しているジーエルイー合同会社が参加するチームが採択された。金城さんはリーダーとして動いている。
「『海洋プラごみをリサイクル原料とした‘人の心に残る’製品の開発』というテーマで取り組んでいます。例えば、‘回収した海洋プラごみからできたクリーナーが家をきれいする’というような製品を形にしていきたいです」
https://ikkaku.lne.st/
その他、渡嘉敷島では‘島で作ったブレスレットを購入すると1袋分のゴミが無くなる’事業や、各企業に福利厚生として‘マナティ休暇’を提案するなど、多方面で環境活動に尽力している。
「今、世界的にも海洋ゴミへの意識が高まっていて、現状の改善が期待されます。沖縄でも、マナティを通じて、ゴミ問題に対する理解が深まり、さらには地域の人と出会うきっかけになれば良いなぁと思っています」
先駆けて動いた一人の女性の想いに続き、私たちも理解を深めなければならない。
現状は、私たちの関心度を反映させた低い政策優先順位になっているなど、解決に向けて思い通りにいかないことも多い。
今出来ることは、構造の理解と実践にある。