〝全国最悪〟那覇周辺の交通渋滞はなぜ起きる

 
国道58号 沖縄ニュースネット
那覇市内の国道58号

 5月28日、沖縄総合事務局は、昨年3月に全線開通した国道329号金武バイパスの整備から1年間で得られた効果を発表した。

 国道329号の金武町中心部を通る区間は、米軍キャンプハンセンの入口で渋滞が激しく、バイパスの全通前は渋滞が最大で1,400メートルにも及んだが、それが80メートルと9割も減少したという。バイパスの全通によって近くの浜田漁港からの水産物の運搬がスムーズになるなど、沖縄総合事務局は物流の効率化に繋ったとする。

金武バイパス 沖縄ニュースネット
金武バイパス 沖縄総合事務局資料より

 金武町では2011年に返還された米軍基地ギンバル訓練場(約60ha)の跡地をスポーツコンベンション拠点として整備し地域活性化を進めており、金武バイパスの開通がそれを促すものとして期待されている。県内各地でこうした道路整備が進むが、まだまだ交通渋滞の解消にはほど遠いのが実情だ。

復帰時には「歩いたほうが早い」

「沖繩の、いまさっきの話の中からもありますとおり、大きな問題になっておるのが交通の渋滞の問題でございます。そこに走るバス、タクシー、かようなるものは歩いたほうが早い」

 衆議院の沖縄及び北方問題に関する特別委員会で衆議院議員だった國場幸昌氏がそう指摘したのは、本土復帰の翌年の1973年3月のこと。バス・タクシーを使うよりも「歩いたほうが早い」とされた当時は、那覇空港から那覇市中心部に出るまでに車で1時間もかかると言われたほどだ。

 それから半世紀近くが経ち、多少は緩和されたとはいえ、那覇市を中心に浦添市、宜野湾市、豊見城市、西原町、南風原町の4市2町からなる那覇都市圏の交通渋滞は、全国的にもよく知られるほどのひどさだ。

 那覇都市圏の人口は、2015年の国勢調査で66万3,000人あまり。人口密度は5,300人/㎢と福岡市を上回り、人口増加率は東京都並みである。

 だが、この人口密集地帯にモノレールの「ゆいレール」をのぞき鉄道がない。そのモノレールも昨年10月にてだこ浦西まで延伸したが、都市圏全体を広くカバーしているとは言い難い。近年はモノレールの利用者は増加傾向にあるが、その一方で、残る公共交通機関のバスは、利用者の減少に歯止めがかからない。

モノレール 沖縄ニュースネット
ゆいレールHP掲載資料より作成
バス利用者数 沖縄ニュースネット
県内バス利用者数の推移 沖縄総合事務局資料より

 公共交通機関は旅客輸送のわずか3%

 モノレールの利用者が増えていると言っても、旅客輸送全体を見てみると、公共交通機関(モノレール+バス)が占める割合は、3%あまりしかなく、自家用車の割合が90%以上に上る。なお、東京では鉄道およびバスの割合が77%に上り、全国平均でも30%近くある。あらためて沖縄のマイカー依存ぶりが浮き上がる。

 しかも、本島中南部では2000年度から2018年度にかけて自動車の保有台数が30%も増加しているのだ。

自動車保有台数 沖縄ニュースネット

 さらに、昨年は1,000万人を超えるまでに観光客数が増加したのにともない、県内で登録されているレンタカーの台数も増える一方だ。観光客の移動手段といえば、タクシーやバスをダントツで抜きレンタカーが最も多くなっているからだ。

レンタカー保有台数 沖縄ニュースネット

 かくして公共交通機関の利用が伸びないなかで自動車の台数は増える一方なわけである。もちろん国や自治体も指をくわえて見ているわけではない。西海岸道路の整備をはじめ、国道58号の浦添市内の拡幅なども進められているが、要は増加する交通需要に追いついていないのだ。

 自動車1台あたりの道路実延長を見てみると、沖縄県は全国平均15.8メートルの半分しかない7.9メートルしかない。

 国道58号の那覇市の久茂地や松山界隈、旭町、天久、さらに浦添市の勢理客、牧港、宜野湾市の伊佐など渋滞エリアは枚挙にいとまがない。さらに国道330号も深刻だ。那覇市与儀や安里十字路などがあり、那覇糸満線(県道82号)の儀保や鳥堀の交差点などもよく知られた渋滞スポットだ。

三大都市圏を上回る那覇の渋滞

 沖縄総合事務局が作成した資料によると、平日の混雑時の移動速度は、やや古いデータだが、2012年度に那覇市で1時間あたりに16.9㎞。この数字は、同じ年の東京23区の19.3㎞/hや大阪府の19.5㎞/hを下回る。さらに那覇市の移動速度は2014年度には15.9㎞/hまで下がっており、まさに全国最悪の交通渋滞と言われる所以である。

移動速度 沖縄ニュースネット
沖縄総合事務局資料より

 交通渋滞の解消には道路の整備だけでは追いつかない。そのため、一昨年には那覇市内に新バスターミナルの整備が進められ、さらには那覇市と沖縄市を60分で結ぶ基幹急行バスが昨年10月から運行を開始。バス利用の増加が期待されている。

 さらに、昨年10年にモノレールの延伸で新たな終点となった浦添市のてだこ浦西駅には、1,000台規模の駐車場が設けられ、沖縄自動車道と直結させることで、本島中部や北部からの利用者がここでモノレールに乗り換えて利用することを想定している。だが、付近に沖縄自動車道のインターチェンジが完成するのは、2024年度。延伸初年度のてだこ浦西駅の1日平均乗客数は1,308人にとどまっている。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、県外からの観光客が激減しており、交通渋滞も心なしか緩和されたように感じられるかも知れない。だが、今後、経済が回復基調に向かえば、再びこの問題が沖縄経済の大きな足かせとなってのしかかってくるだろう。解消に向けてさらなる取り組みが必要だ。

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