突如コザに現れた「路上野菜解放戦線」とは 放置花壇でゲリラ的に野菜植える

 
沖縄ニュースネット
「路上野菜解放戦線」と文字列はものものしいが「放置花壇に野菜を植える」という活動だ

 沖縄市の中央パークアベニューにある複数の空き花壇に突如現れた「路上野菜解放戦線」の文字。ここには何者かが植えた野菜の苗が成長を続けていた。いったい誰が何の目的で「路上野菜」を植え、誰に対して「解放」したがっているのか。実際に野菜を育てだしたグループの男性に話を聞いてみた。

誰でも食べていい野菜を路上に

 約10カ所の花壇やプランターに、パプリカ、オクラ、キュウリ、トマト、ネギ、空心菜、ゴーヤーといった野菜類に加え、パクチー、バジル、トウガラシのハーブ・スパイス類まで幅広く網羅している。これを植えたのは、冒頭でも触れた「路上野菜解放戦線」だ。沖縄市在住の複数のメンバーからなる彼らは、人知れず活動する“ゲリラ”を名乗っている。この「路上野菜」は、道行く人誰もが手に取って、食べても大丈夫だという。

 長らく誰も手入れをしていない放置花壇を見極めて、4月半ばごろから栽培を開始した。6月上旬時点でまだしっかり実を付けているものはないが、野菜たちは順調に成長を続けている最中だ。「7月には食べられるようになると思う」と取材に応じたメンバーの男性は待ち遠しそうにその時を待つ。

取材に応じる男性

そもそも、なぜ野菜を植えている?

 空き花壇に野菜を植えはじめたのは「お金のあるなしに関わらず、どんな人でも食料が手に入るように」との思いを抱えているからだ。

 「自分たちの生活も大変だが『自分たちだけ生きのびればいいや』ではいけないと思っている。コザ(沖縄市中心部の通称)に来たら野菜がただで食べられる状態を作り出せば、多少の助けになれるかもしれない、と考えている」

 路上野菜解放戦線のメンバーによると、これらの野菜やハーブは「私有物や公共物という垣根を超えた、食べられる『解放物』」との位置づけだという。

 経済の停滞や世界的な危機で食料輸入が止まった際に、安全保障の在り方としての食料自給率の向上も強く意識しているポイントだ。この活動が多くの場所に広まってほしいとも願っている。

 今のところ、誰からも苦情は出ていない。

 「既成事実から作って、みんなが路上の野菜を当たり前に『町に生えている山菜』という感覚で食べてほしい」

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沖縄市・中央パークアベニュー

海外の「ゲリラ・ガーデニング」から着想

 ちょうど欧州や北米を中心に「ゲリラ・ガーデニング」と呼ばれる、行政や団体などに所有されているのにも関わらず、長らく放置されている花壇や土のある一角などに、花や野菜を植えるというカルチャーが存在している。景観を良くしたり、食料を提供したり、コミュニケーションの一助にすることが主な目的だ。

 路上野菜解放戦線もこれに着想を得た。

 「例えばイギリスのトッドモーデンという小さな町には、町中にハーブが育っており、みんながそれを自由に料理に使っているらしい」

 実際、その波及効果は観光客の増加にも現れている、とメンバーの男性は話す。

 「トッドモーデンもそうだが、南米に街路樹に実がなるものしか植えていない街もあると聞いた。沖縄市もそうなってほしい。『野菜だらけの街があるらしい』となると、それ自体が観光資源となり、市の知名度向上にもつながるので行政も損しないはずだ。」

野菜は誰にも平等に 声明文「大自然のルールにのみ従う」

 路上野菜解放戦線は、その思いを“声明文“として発表している。以下だ。

路上野菜解放戦線は野菜を育み、路上に解放することを目的として活動するゲリラ組織である。

我々が路上で生育した野菜およびハーブの可食部は、地域の住民や通行人に限らず、観光者、警察官、政治家も含んだあらゆるすべての人間が自由に食べて良いこととする。当然、我々も食べるものである。

青果の受け取りに際しては許可も申請も必要なく、報告の義務もない。

我々は人種、国籍、年齢、セクシュアリティ、思想、信条、信教、友人、他人など、人間に関するあらゆるカテゴライズを放棄する。

また、我々は大自然のルールにのみ従い、どの国の法律にも縛られることがない。

この声明文は我々の生まれた背景と最終目標を明確にし、潜在的な同志に呼びかけることを目的として記していく。

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「路上野菜解放戦線」の男性(本人提供写真)

徐々に広がる活動

 とはいえ、路上野菜解放戦線には「自分たちの所有ではない場所に野菜を植えている」という、法的にグレーなことをしているという思いはある。

 なので、誰にも迷惑をかけないようにとルールをしっかり定め、活動に賛同し参加してくれる人に対しても呼びかけている。

 それは、以下の植物は植えない、という点だ。

・ずば抜けて繁殖力の強い植物(ミント、ドクダミ、藤など)

・毒虫や害虫を呼び寄せるおそれのある植物(クチナシ、カモミール、柿など)

・トゲや毒のある部位を持った植物(モロヘイヤ、ラズベリーなど)

・匂いの強い植物(栗、ジャスミン、菜の花など)

・生命力が強すぎて建築物を破壊するおそれのある植物(ハト麦、キウイなど)

 最近では、地域の人もこの活動に賛同し始めているという。

 「近くのお店の人が、お店の前にトウモロコシを植えていたり、近所のおじさんが『路上野菜解放戦線』の文字を見て『野菜を(誰かに)解放したよ』と植物を移植していた。なんだかんだで同時多発的に様々な動きがあると感じている」

 活動を知った東京の人からも連絡が来たという。

 「食料問題への意識を共有していた方だった。全国に野菜の種を無料で届ける活動をしている。一過性のムーブメントではなく、気付いたらどこにでも野菜があって食べられるという状況を作れることは望ましい」

もし怒られたらどうする?

 もしかしたら今後、近所の人に「こんなこと勝手にしてはダメだ」と言われるかもしれない。その時にはどうするか。

 「なぜダメと思うのか、をしっかり話を聞いて、一緒に考えていきたい。それも含めてコミュニケーションの一部になれば。こちらとしては自己利益ではなく、公共のためにやっているということをしっかり伝えていきたい。『あなたも食べていいんですよ』と」

初めての収穫物は誰の手に

 7月頃を見据えた結実の時が、待ち遠しくてしょうがないという。

 「オクラが好きなので育つのが楽しみではある。湯がいてマヨネーズをかけて食べたい」

 こんな楽しみを、誰かに共有してもらいたい。その想いで“ゲリラメンバー”は毎日花壇の前を通っては、花壇を凝視してしまうほど、野菜たちの成長を楽しみにしている。道を歩くことすらワクワクする出来事になった。

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成長を待つパプリカ

 取っていくのに何の許可も要らない「路上野菜」。最初に野菜を取っていくのが誰なのか知る由もないかもしれないが、男性はその誰かを思い浮かべたのかもしれない。

 「初めて誰かに実を取ってもらった時は、すごくうれしいだろうね」

 思いの詰まった路上野菜を最初に食べる人は、自分ではなく“誰か”ということは確かだ。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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