薄氷はいつ割れてもおかしくない 県議選後の勢力図

 
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 6月7日に投開票の県議選は「玉城与党 薄氷の勝利」と評された。16日に会派の届け出が締め切られ、新たな組み替えを見てみると、薄氷はいつ割れてもおかしくない勢力図と言える。

 玉城デニー知事を支える「オール沖縄」の県政与党は、社民・社大などで作る「沖縄平和ネットワーク」(以下、沖縄平和)が8人。共産党が改選前から1議席増の7人。立憲・国民・にぬふぁぶし・無所属で作る「てぃーだネット」(以下、てぃーだ)が7人。現職2人を落選させた「おきなわ」は3人。この4派で25人と辛うじて過半数を維持している。

 沖縄平和は元職と新人が当選したとはいえ、6期当選で次期議長候補と目された社大党委員長の大城一馬氏が落選した。

 選挙直後、10人前後で新会派を結成すると見られていた山内末子氏は、瑞慶覧功氏が代表を務めるてぃーだに加わった。数字上で見るとおきなわとの連携が不調だったことが想像できる。

 共産党は擁立候補全員が当選する躍進で7人。その裏で、与党系無所属候補の足を引っ張る動きがあったことは後述する。

 新型コロナの影響で、独自の選挙戦を展開できないと見た公明党は、2人の擁立を見送り2人。日本維新の会を離脱した「無所属の会」が2人。この4人が中道を形成する。

 対する県政野党の自民党は、改選前から4議席増の17人に加え、新たに2人を追加公認し19人と6議席増やした。2008年が16人、12年が13人、16年が14人と続いていた凋落傾向に歯止めがかかり、04年の20人に迫る勢いだ。

 国頭郡区で党政調会長の具志堅透氏、那覇市・南部離島区で2期目を狙った山川典二氏の2人の現職を失った。しかし、新型コロナ対応や黒川弘務・東京高検検事長の辞任問題などで逆風が吹いていた中での選挙戦は、大健闘と言えるだろう。

負けに不思議な負けなし

「勝ちに不思議な勝ちあり。負けに不思議な負けなし」とは、今は亡き名将・野村克也監督の名言だ。再編後の議会運営を占う前に、いくつかの選挙区の勝因・敗因を分析してみた。国頭郡区は与党が2人当選を目指し、当選した平良昭一氏に加え、4期務めた元職の吉田勝廣氏を擁立したが、222票差で及ばなかった。

 沖縄市区は自民党が新人を含む2人を当選させ、1人増やした。一方の与党はおきなわの現職を落選させた。うるま市区とともに玉城知事のお膝元であるだけに、取りこぼした精神的ダメージは大きい。本島全域に大雨警報・注意報が発令されたこともあって、浮動票が見込める「芝居しー」のタレント候補には気の毒な一面もある。

 しかし、同区の勝敗のカギを握ったのは、お隣のうるま市区の照屋守之氏だ。同区が無投票だったこともあり、照屋氏の支持者と団体が沖縄市に出向き、自民2候補の陣営を盛り上げた。これが2議席確保の原動力につながったようだ。

 宜野湾市区は社民の現職が落選し、無所属で出馬した元職の呉屋宏氏が返り咲いた。「番狂わせ」と言われているが、公明党が「最重要選挙区」と見ててこ入れに入ったようだ。

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激戦となった那覇市区

 那覇市・南部離島区は最激戦区だった。注目したのは次次点の山田マドカ氏。公式ホームページには、都知事選に立候補を表明したれいわ新選組の山本太郎氏とのツーショット写真が掲載されている。玉城県政を支持する立場を訴えて選挙戦に臨んだが、最下位当選者とは252票差。無所属新人としては大健闘だが、選挙は勝たなければ意味がない。

 左派ポピュリズムの傾向がある山本氏を後ろ盾にするならば、「2児のママ」を前面に出したのは誤算だったのではないだろうか。女性候補だからといって、“子育て”と“台所”を政策に据えたのでは、逃した若者や独身者らの票も少なくないだろう。

 豊見城市区は、自民、共産の現職2人に与党系無所属新人の山川泰博氏が挑んだ。結果は現職2人で決まった。

 山田、山川の2候補は玉城知事を支持することを表明していながら、肝心の玉城氏の表立った支援は受けられなかった。ここに注力していれば、少なくとも山田氏の滑り込みはあったはずだ。

 なぜ果たせなかったのか。玉城知事を支持していながら、山田氏の法定ビラには玉城知事や与党国会議員の名前は連ねていなかった。応援演説もなかったようだ。豊見城市区の山川氏もしかりだ。同氏の選対関係者が声をひそめて言うには、「オール沖縄」から立候補そのものを取り下げるようにと圧力も掛けられていたという。

 「与党系無所属候補の足を引っ張る」と書いたのは、オール沖縄を牽引する共産党のこの動きで、山川氏の選対関係者は、山川氏には玉城知事の応援が及ばぬような働きかけも展開していたという。それだけでなく、与党・保守中道的な市議には、山田、山川両候補の応援演説に入らないようにとの「自粛要請」もしていたという。

形勢の逆転もあり得るのか

 さて再編後の議会運営だが、与党4会派は合わせて25議席。対する野党・中道系は23議席。しかし与党内から議長を選出するとその差は1議席だ。

 与党内、殊に保守中道を標榜する「おきなわ」には、共産党の強引さを批判する声が強く、仮に同派の3人が与党から離脱すれば、22対26と形勢は逆転する。

 「おきなわ」の3人に注目が集まると報道されるが、むしろカギを握るのは共産党と見る。同党がオール沖縄を牽引しようとすればするほど遠心力が強まり、逆に溝が深まる。近付けば近付くほど傷つける。共産党が「ハリネズミの悲劇」を学ぶのは、そう遠くはないようだ。


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