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大学入試はどうなるの?不安募る高3生 コロナで生まれた教育機会の格差と迫る新入試
- 2020/5/20
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新型コロナウイルス感染拡大により、3月より約2カ月続いた休校がやっと21日から解除されようとしている。
多くの学生と保護者には安堵の声が広がる一方で、進路選択、入試が間近に迫る高校3年生の不安は拭えていない。
来春の大学入試は長年、議論されてきた高大接続改革の初年度。しかし、新型コロナウイルスの影響で生じた休校分の授業の遅れをどう取り戻せばいいのか。入試にどう挑めばいいのか。離島県・沖縄の学生たちの未来の扉をどう開くのか、高校生の声と動きを追った。
「社会の支えが必要」危機感を募らせる学生たち
「国の支援は非常に遅く、未来を諦めないといけない寸前の状態で学生たちは持ち堪えており、社会の支えが必要」
5月15日、沖縄県内学生への緊急支援を求める学生有志の会の代表者は沖縄県庁を訪れ、県と県教育委員会に対し、要請を提出。その場で共同代表の小林倫子さん(琉球大学大学院生)は訴えた。
同会は5月、SNSやメールを使って集めた学生らの声をTwiterなどに投稿。改めて5月6日よりアンケートを実施すると、4日間で1383件もの回答が集まった。その結果から要請をまとめた。
内容は大きく8項目。生活費支援金や学費の補助からWi-Fiなどオンラインで授業を受けるための通信環境整備の補助、相談窓口の開設まで多岐にわたっていた。
「先生に進路の相談ができない」
「私は今年大学受験があり、部活を3年生まで続けるつもりで勉強、部活どっちも頑張ってきた…」
会が行った高校生を対象とするアンケートでは、収入減や学費支払いへの不安の声に混じって、高校3年生から学びや進路を不安視する声も多くあった。
オンライン授業と塾…環境差で増大する学びへの不安
県立高校は3月4日から15日に休校、春休みを経て4月以降も休校が続いた。21日から分散登校が始まるが、通常授業は6月1日からだ。その間、各自で取り組む課題を出したり、オンラインで授業を行ったりするなど対応は学校ごとに異なった。
県内学生への緊急支援を求める学生有志の会には生徒から「学校ごとに勉強の差が出ていると感じる」「授業内容終わってません。塾にも行ってないし、なかなか勉強したくても進めない範囲がたくさんあります。金銭的にも余裕があるわけじゃないので、このまま登校日が増えてもバス代なども含めお金もかかって大変」とのが寄せられた。
なかには私立高校に通っている生徒から「高い学費を、払っているのにほとんど授業を受けることができません」との声も。新型コロナウイルスの感染拡大で生徒たちの教育機会に格差が生じているのだ。
一方で、塾の指導も受けながら冷静に学習意欲を維持する高校生の姿もある。
「受験の問題傾向が変わってもみんな同じ状況で受けるから、自分だけ不利ではないのでそこまで心配ではない」というのは奥間映里華さん(18)。
奥間さんが通う塾「NEXT GENERATION」の理念は「勉強ではなく、勉強法を教える」こと。塾ではYouTubeを使った映像授業の作成や、LINEでの質問対応の人員の増加をして対応している。
塾を経営して指導にあたる慶應大学生の前田龍吾さん(20)は、今回「(生徒には)自分で学習する力が必要になったと感じている。短い言葉でまとめると『主体性』。生徒達には自分の身を取り巻く環境に対して、『与えられるのではなく、自分で創る』ということを意識してほしい」と強調する。
2020年度の入試改革 未だ見えないコロナ対応の具体策
現高校3年生の受験への不安は例年より一層大きい。その背景にあるのが、文科省が長年議論してきた高大接続改革だ。「新たな価値を創造する人材を育成する」という命題のもと高校と大学の学び、そして大学入試の改革をするもので、その本格実施の初年度が来春の入試。そのため、現在の高校3年生は入学した頃から「記述式回答の問題が導入される」「英検などの民間の英語検定が入試の選抜に利用される」と言われてきた。
しかし、今年に入り、記述式回答の導入も英語の民間試験活用も見送りが発表された。一方で、改革の一環である「AO・推薦入試での入学者の割合を増やす」という傾向は拡大している。高校生にとっては刻一刻と迫る受験への対策が見通せないなか、新型コロナウイルスの影響がさらなる追い討ちをかけている形だ。
「新入試で入試の対策が難しい中このような状況になり、国が受験生に対する情報(通常通りか、なんらかの対策をとっていただけるのかなど)を出してほしい」
「推薦に間に合う検定が中止になってしまった。部活の大会が中止になった」
「今年からセンター試験から共通テストに変更されます。このような状況で、授業をしっかり受けることができないということは非常に不安」。
沖縄の高校生からも切実な声が上がっている。
今年の大学入試はどうなるのか。
文科省は14日、来春入学のAO・推薦入試について、部活や検定試験の結果ではなく、活動や取り組みに向けた努力のプロセスや、大学での学びの意欲を総合的に評価するよう、各大学に通知した。その他、面接やプレゼンテーションによる選考などをオンラインで実施することや、多様な選抜方法を用いること、学力検査の内容について改める余地も残した。
一方で、未だ一般入試について文科省から対応策は示されてはいない。
AO・推薦入試に関して全国で啓発に取り組む北陸大学経済経営学部客員教授の藤岡慎二さんは、各県から不安の声や問い合わせが届いているといい、「みんな同じ不安がある。塾も予備校も、高校もほとんど対策を提供できていない」と全国的な課題だと指摘する。
その上でAO・推薦入試については「スポーツ推薦などであればいざ知らず、通常のAO・推薦入試は大会や検定そのものにそこまで重点を置いていない。あくまで、大会や検定を通じて自身が学んだこと、成長したこと、気づいたことを言語化できるかを見たい」と強調し、「普段の学校生活や家庭生活、今回のコロナ禍で気づいたことをまとめることでもいい」とアドバイスする。
一方で、一般入試に関しては「良質の対策を見抜くことができる人を見つけ、従うしかないだろう。これは全国的な問題でもある」とした。
文科省では今週も関係者による協議が続いている。
1、2年後にも続く影響 離島県に課題は山積
県の教育事業に長年携わってきたおきなわ教育ラボの神部愛さんは「高校入試なら県立高校の枠組みなので、県の判断に委ねることができる。しかし、大学入試は全国の生徒がライバルとなる全国一律のもの。待ったなしの状況」と高校生の心情を察し、動向を注視する。
さらに、「新型コロナウイルスの影響は、今年だけでなく現高校1年生、2年生にも続いている」と心配する。実際に、離島県である沖縄で長年、高校生たちが県外や海外を訪れる機会として提供されていた県の県外派遣事業や海外短期留学プログラムも中止が決まっている。
例年開かれている大学の広報担当者が一斉に集う説明会も実施が見通せないなか、今後、同社では進路の情報などを発信するウェブサイトや講演会を設けることも検討しているという。
授業の遅れにどう対応し、進路活動をどうサポートするのか。
沖縄のなかでも生じた学びの環境の差とその不安をどのように解消していくのか。
いまだ指針が示されていないなか、高校3年生にとっては入試までの1日、1日がカウントダウンされている。