【ICU担当看護師の声】コロナ禍で見えた看護現場の課題

 
病院イメージ 沖縄ニュースネット
※イメージ写真

 先日、沖縄は緊急事態解除となった。そんな中で気になるのは、医療現場の現在の状況と第二波の可能性だ。ワクチンの完成まで早くても半年、長い場合は何年もかかると言われている中、ワクチン完成前に第二波、第三波がくる可能性は十分にあるだろう。

 新型コロナウイルス感染拡大により、世界中で「医療崩壊」という言葉が飛び交った。日本も医療崩壊とまではいかずとも、多くの医療現場で物資の不足やマンパワー不足、病床数の不足などが問題となった。沖縄も例外ではない。

 今回、沖縄県内でICU(集中治療室)担当看護師として働く方に、ピーク時の現場や現在の状況、浮き彫りになった課題などを匿名で話を伺った。(記事内ではA さんとする)

ピーク時、コロナ以外の患者にも負担。「家族なのになぜ会えないのか」

 Aさんの勤める病院では、2月には新型コロナウイルス対策チームが組まれたそうだ。Aさんはチームメンバーではなかったが、ICU担当看護師だったため、必然的に重篤なコロナ患者を受け入れるよう指示があり、新型コロナウイルス患者受け入れ準備を行なった。

 実はピーク時における看護師の苦労は、新型コロナウイルスの患者対応だけではない。ICUは今まで院内の患者に対し手術を行う場所だったため、新型コロナウイルス感染者受入れが進むにつれて、新型コロナウイルス患者以外のICU利用が制限されてしまったのだ。

 Aさんの勤める病院では、4月末のGW前頃にピークを迎えていた。感染患者数が徐々に増えていく中、コロナ患者を優先する必要性にかられ、通常患者の手術を延期した。手術が延期となり、自宅待機の患者もいたが、入院期間が伸びた患者も多くいた。入院期間が伸びるということは、病院にとっても患者にとっても負担が大きいものとなった。

 また、今すぐ手術を受けなければいけない重篤な患者に関しては通常通り手術を行なったが、院内感染防止のための厳しい面会制限があり、術後も家族に会えない心理的負担は大きかった。

 もっとも、この心理的負担は患者だけではない。「家族なのになぜ会えないのか」。入院患者家族から、こういった声が届くようになった。新型コロナウイルスではないのに、死期が近づいているかもしれない家族に会えない、その悲しみはわたしたちが容易に想像できるようなものではないのだろう。看護師は、それでも会わせられない申し訳なさとの葛藤があった。

 看護師への負担は、心理的なものだけではない。術後の患者にとって家族に会う時間は、唯一の安心の時間となるのだろう。看護師はこれまで以上に、“家族が支えていたであろう”心理的なところを支える必要があった。家族に会えない患者が、看護師にその役割を求めてしまうのは、当然といえば当然なのかもしれない。看護師のコミュニケーションコストも格段に上がったのだ。当然、家族からの電話や状況説明にかける時間も増えた。

看護師の苦悩

 医療現場は緊迫した状況であることは多くの人が理解していたところだが、やはり話を聞くと恐ろしさがこみ上げる。

 まず全国的に叫ばれていた「マスク・ガウン不足」。Aさんの病院も例外ではなく、マスクは1週間に一枚配布され、それを箱に入れて保管し、複数回使い回すという状況が続いた。また、新型コロナウイルス患者対応に使われるN95マスクはとても息苦しく、常に呼吸が苦しい中での労働となった。ガウンは一度脱いだら捨てなければいけない決まりなので、1度新型コロナウイルス患者の病棟に入ると、2〜3時間は出ることができなかった。トイレや保水などにも制限があった。

 また、生活を変える必要がある人が多くいたことも、精神的な負担となる。家族がいる人は必然的に家族を感染させてしまう恐怖に苛まれた。家族の感染を恐れ、病院の寮に入る人や、自腹でマンションを借りる人もいた。Aさんも家族との別居を選択した。

 さらに、AさんのようにICU担当看護師や新型コロナウイルス担当チームだけが負担を負ったわけではない。チームは特設的に作られ、早い段階から新型コロナウイルス対策の訓練を行なっていたたため、当然チームメンバーを引き抜かれた部署は、かなり前から減少した人員分の穴埋めをしなければならなかった。1月ごろからすでに夜勤カバーなどひとりひとりの負担は増えており、また通常以下の人員で通常業務をまわすことになるため、医療従事者は一人残らず負担が大きい状態となってしまう。

緊急事態宣言解除のその後

 今のところ沖縄は新規感染者ゼロが続いており、Aさんの病院にも新型コロナウイルスによる入院患者は出ておらず、業務も通常通り戻りつつあると話す。

 だが、第二波、第三波の可能性は濃厚だと感じており、いつ新型コロナウイルス患者が訪れてもおかしくないという緊張感はずっとあるのだそうだ。新型コロナウイルスは、基礎疾患の皆無に関わらず、悪くなるときは突然悪くなるという厄介な特徴がある。話を聞くと、レントゲンを取った際、昨日まで元気だった肺が一夜にして真っ白になるというのだ。看護師は「今までに見たことのない悪化の仕方だ」と、ウイルスへの恐怖を語る。

浮き彫りになった課題

 重篤患者の“最後のとりで”とされる「ECMO(エクモ)」と呼ばれる体外式膜型人工肺(肺が動かなくなった人に装着する生命維持装置)だが、ここにも課題があった。

 Aさんが勤める病院では、エクモを装着できるのは通常のベッド数の半分以下。政府は病床数やエクモの数を増やそうとするが、それでは根本の解決に繋がらないと話す。機械や病床が増えても、対応できる人員が圧倒的に足りないのだ。

 エクモを使用するには専門的なトレーニングを受けている人ではないと難しく、ただでさえ人員不足と言われる中から、経験と知識が豊富な医師がいないと取り扱うことができないのだ。圧倒的にマンパワー不足なのである。

 ICUに関しても同様だ。現状、ICU担当看護師というのは「3〜4年経験を積み、やっと一人前」という世界だ。だが第二波に向けて、浮き彫りになった人員の対策をしないわけにはいかない。

 現在Aさんの勤める病院では、第二波に向けてICUを担当できる看護師を少しでも増やそうと、トレーニングを行なっている最中だ。第二波を迎える前に、一人前まではいかないものの、3人1組で取り掛かる行為の中、最後の1人、つまりサポート役ができるところまで育てようというわけである。

 新型コロナウイルス対策チームの解散も、実質はしない方向だ。一旦それぞれ元いた現場に復帰するが、第二波が訪れた際は、最優先でそちらのチームに戻ることとなる。

 最後に、Aさんに辞めようと思ったことはないのかと聞いた。Aさんは「自分がICU担当じゃなければ家族と一緒に暮らせたのに、という想いはある。だけどやはり看護師としての使命感があるし、同じ気持ちで頑張る同僚を見ると、自分だけがそんな気持ちじゃないと思うから頑張れた」と話した。

 私は思う。医療現場で頑張る医師や看護師たちが、新型ウイルス感染拡大でマンパワー不足や苦しみを乗り越え、「やめない」選択をすることは決して当たり前ではない。自粛をしている人が「限界だ」と言ってパチンコや遊びに行ってしまう以上に、医療現場の人が「限界だ」と言って仕事を放棄する可能性の方が、心理的には高いのではないだろうか。けれど現実はそうなっていない。

 第二波、第三波が来ないことを一番に願いたいところだが、もしも訪れた時は、そのことを頭に入れ、よく考えて行動したい。

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三好 優実

三好 優実

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香川県出身・沖縄移住歴6年目のフリーランス編集者・ライター。主に沖縄県内の観光・グルメ・経済について執筆。シリーズ本「香川県あるある」の著者。

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