高山医師提言 予防と経済の両立へ Save Okinawa Projectシンポ

 
高山義浩医師 沖縄ニュースネット
県立中部病院 高山義浩医師

 新型コロナウイルスへの対策や、コロナ後の沖縄県がどうあるべきかを考えるオンラインシンポジウム「COVID-19から新しい沖縄県の未来を創る」が5月17日、YouTube上などでライブ配信された。沖縄県医師会理事の玉城研太朗氏の呼びかけによって集まった、医療、政治、教育など県内外様々な分野の有志からなる「Save Okinawa Project」が開催した。

https://www.youtube.com/watch?v=VORWO4aiKFk

 シンポジウムの冒頭では、感染症を専門とする県立中部病院医師で、県の専門家会議のメンバーでもある高山義浩氏が、県民が今後、どのように感染対策と経済を両立させていくべきかなどを、専門的な見地から提言した。

 内容は以下の通り。

「おおむね市中感染は起きていない」

 沖縄県では感染者数のゼロが続いています。5月14日の段階で、専門家会議が活動再開の目安としていた14日間連続をクリアしました。今、県内では様々な経済活動が再開されていますし、来週(18日からの週)にはようやく子どもたちが学校に行けるようになります。14日間連続という目安は他の県と比べてもかなり厳しめの目安となっていました。

 なぜなら、沖縄県は医療リソースが限られていますし、(島しょ県のため)患者さんの広域搬送が難しいという特性があります。生活圏を共有している小さな離島が多数あるので、小さな流行でも耐えられない可能性があります。必然的に沖縄県全体がガードを高めにしなければならないと考えています。

 とはいえ、さすがに14日間にわたって患者さんが確認されないということは、おおむね市中感染は起きていないと考えていいと思います。いきなり全開というわけにはいかないでしょうが、職場も学校も、県内での移動についても徐々に再開頂ければと思っています。県外からのウイルス持ち込みについて、十分に警戒していくということが必要になると思います。

強固な感染対策が沖縄観光のブランドに

 もちろん、県外との交流を絶つわけにはいきません。特に沖縄県にとって、豊かな観光資源というのは強みで、誇りでもあります。観光客を受け入れないと経済が成り立たないという問題もあります。

 私たちは新型コロナのある世界において、観光と感染対策の両立を目指したモデルを作っていかなければなりません。そのことが沖縄における観光の強みになりますし、誇りになると私は信じています。

 観光客を受け入れる上での感染対策について、提案させて頂きたいと思います。どこまでできるかは、事業所ごとに検討いただければと思います。

 まずホテルです。

 ブッフェ形式はちょっと危ないかな。今どき不特定多数がトングを共有しているというのは観光客も不安になるのではと思います。どうしてもやらざるを得ない時には、ホテルスタッフが取り分けて頂ければと思います。感染対策をしっかりやっているということが、沖縄の観光ブランドになるように頑張っていきましょう。

 不特定多数の方々が共有するものはできるだけ減らしていく。エレベーターホールなどどうしても不特定多数が接触する機会ある場合は、アルコールを置くように心がけて頂きたいと思います。

 出来れば各室に体温計を設置してください。そして毎朝の検温を宿泊客に求めます。体温計は使い捨てでいいと思っています。紙でできていて、口に加えて体温に反応して色が変わるタイプがあって、1枚180円ぐらいです。水洗いして何回か使えるタイプのものもあります。チェックインの時に渡して、毎朝計ってもらうのも一つの方法かもしれません。

 発熱のある宿泊客には活動自粛を求めてください。自分が発熱していることに気付かせるということが大切です。こういう対策をやっているということが、他の宿泊者にも安心を提供している。必要に応じて医療機関を紹介できるホテルということを心がけてほしいと思います。

 もし流行地域からの宿泊客で発熱がある場合には、保健所に連絡してください。PCR検査を適用ということになります。

観光客と地元高齢者の同席は避ける

 次にレストランです。

 沖縄観光の魅力は、美しいビーチなど、自然のアクティビティがありますけれども、最近になって住民との交流を求める飲み屋街の魅力も発信されていますよね。ただ、当面は我慢しましょう。とはいえ、観光客お断りという張り紙をするわけにはいかないと思います。入店時に観光客であるかどうかを確認して頂いて、店内に観光客専用のエリアを設けるのも一つの方法だと思います。

 とにかく沖縄のお年寄りと観光客が並んで座っている状況は避けてほしいというのが、医療従事者としての気持ちです。

 石垣でも(感染者が)4人発生してしまったということがあります。地元の人と観光客をごちゃ混ぜにしないことです。個人と個人との距離を空けるというよりも、ハイリスクグループがどういった人たちかを認識して、ローリスクグループとの距離を取ることが今後の戦略になると思います。

タクシーにはマスク配備で運転手を守る

 最後にタクシーの話をします。4月までの流行で、5人のタクシーやハイヤーの運転手さんが感染してしまいました。その運転手さんからの二次感染も県外で起きています。密室で長時間過ごす運転手さんをどう守っていくかは大事ですよね。

 一番良いのは、感染対策をとったマイクロバスのようなものでホテルと空港との間をお迎えに行くことだと思うが、それでもタクシーに乗る人がいるでしょう。マスクを配備してください。観光客の方でマスクをしていない人がいる場合は渡すことが大事だと思います。会話により運転席に飛沫を飛ばさないように、ビニールシートなどでブロックするのも一つの方法です。そうやって運転手さんを守るということ。

 そして高齢のドライバーさんには感染した時の重症化リスクが大きいので、空港やホテルでの付け待ちは出来れば若い方に譲って頂きたい。配車センターも仕事の割り振りを工夫して頂ければという風に思います。

中世の歴史に学ぶ「島の存亡を賭けた戦い」

 少しだけ歴史の教訓についてお話させてください。

 私は以前より、県内で感染対策についてお話をする時に「交易で栄えた都市国家は疫病で滅ぶ」とお話させて頂いています。もともと沖縄は疫病リスクが高い島です。140万人が住んでいる島に、年間1000万人が島の外から訪れます。そのうち外国人が300万人です。新型コロナウイルスが世界に広がった今、まさに島の存亡を賭けた戦いが始まろうとしています。多くの命と島の経済、どちらも守り抜いていかなければいけません。

 古代から中世のヨーロッパで滅びた都市国家から学ぶ教訓として、まず「城壁を信じすぎた」ということがあります。市民は城壁の守りを過大に信じていて、内側での対策を怠っていたんですね。けれども、天然痘やコレラやペストなどの病原体は、わずかな人や物、あるいは水の流れを追ってやっぱり城壁の中に入ってくるんですね。

 先ほど観光客に対する感染対策について詳しくお話しましたが、これは私たちが築く城壁のようなものです。もちろん一定の効果はありますが、安心しすぎてはいけません。持ち込まれる量が少ないだけで、日々突破されているという自覚が必要です。ですから私たちは「ウイルスが持ち込まれても流行できずに消えていく」そんな沖縄社会を作っていかなければいけません。

感染者への非難が蔓延を助長させる

 一番大切なのは「症状がある人が休める社会」です。仕事を休んだら周囲に迷惑をかける、学校を休むと内申書に響く、といったことをやっていると、沖縄社会は感染症に極めて脆弱なままだと思います。

 もちろんそれでも外出しなければならない時はあると思います。そういう時は咳エチケットを身につける、手洗いをきちんとやる、そういうことを心がけて、新型コロナのある世界で上手に暮らしていけないと思います。

 古代都市国家の話に戻ります。疫病の侵入に気付いた市民はパニックに陥り、感染者を罪人のように扱います。白の外に放り出したり、中には火あぶりしたりということもあったようです。これが結局、発熱した人がそのことを隠すようにしてしまったんですね。こうして感染症は蔓延していきました。これが2つ目の教訓です。私たちは「感染者をどのように扱うか」が問われています。

 沖縄社会がもし、感染者を非難したり、必要以上に排除したりしていては、感染者が受診してくれなくなってしまいます。これは本人の重症化させるリスクもありますし、周囲への感染を広げるリスクにもなっているわけです。社会の偏見というのは、個人や家庭ではどうにもならないものです。ハンセン病もエイズもそうでした。社会全体で感染症に対する不安をサイエンスによって払拭していくことが必要です。

感染症への過剰な不安は敗北をもたらす

 古代都市国家では、ついに市民が都市を逃れ出て、周辺の農村へと流行を広げてしまいました。感染症への過剰な不安がもたらすものは、感染症への敗北です。感染症の歴史は繰り返されていて、1000年以上にもわたって私たちは同じ過ちを繰り返してきました。私たちは歴史に学ばなければなりません。

 今、沖縄で最初の流行を乗り越えました。県民の努力の賜物だと思います。もちろんこれで終わりではありません。次の流行に備えて私たちは、陣形を整えないといけません。傷ついた人もいます。疲れ切った人もいます。そうした人を支えて、できるだけ役割を分担していきましょう。誰かがやるのではなく、みんなでやりましょう。誰かが防ぐのではなく、みんなで防いでいきましょう。

 沖縄にはゆいまーるがあります。みんなで助け合って地域を支えるという意味だそうです。新型コロナウイルスの流行により、私たちの団結は高まっています。人と人との距離は広がっているが、互いへの理解は深まっています。力を合わせて新型コロナに強い沖縄を作っていければと思っております。ありがとうございました。

Print Friendly, PDF & Email

関連記事

おすすめ記事

  1.  サッカーJ3のFC琉球が、第2次金鍾成(キン・ジョンソン)監督体制下の初陣を白星で飾った…
  2. 今季から琉球ゴールデンキングスに加入したアレックス・カーク(左から2人目)やヴィック・ローら=16…
  3.  FC琉球の監督が、また代わった。  サッカーJ3で20チーム中18位に沈む琉球は1…
  4. 戦前に首里城正殿前に設置されていたバスケットボールゴールを再現した首里高校の生徒ら=8月27日、那…
  5.  8月12日、浦添市のアイム・ユニバースてだこホール市民交流室は熱気が渦巻いていた。ステー…
宮古毎日新聞

特集記事

  1. 再びFC琉球の指揮を執ることになり、トレーニング中に選手たちに指示を送る金鍾成監督=19日、東風平…
  2. ヴィック・ロー(中央)の入団会見で記念撮影に応じる琉球ゴールデンキングスの(左から)安永淳一GM、…
  3. 沖縄県庁  沖縄県は、地域の緊張を和らげようと、4月から「地域外交室」を設置し、照屋義実副知…
ページ上部へ戻る ページ下部へ移動 ホームへ戻る 前の記事へ 次の記事へ