コロナ後の沖縄の未来討議 各専門家有志12人 Save Okinawa Project
- 2020/5/24
- 新型コロナ・医療
新型コロナウイルスへの対策や、コロナ後の沖縄県がどうあるべきかを考えるオンラインシンポジウム「COVID-19から新しい沖縄県の未来を創る」が5月17日、YouTube上などでライブ配信された。沖縄県医師会理事の玉城研太朗氏の呼びかけによって集まった、医療、政治、教育など県内外様々な分野の有志からなる「Save Okinawa Project」が開催した。
(https://www.youtube.com/watch?v=VORWO4aiKFk)
すでに掲載した県の専門家会議のメンバーである県立中部病院の高山義浩医師による提言に続き、シンポジウムでは参加者がそれぞれ遠隔で画面越しに討議した。各分野からの専門性や経験を生かし、多くの視点から今後の沖縄の未来を照らそうと意見を出し合った。その内容を伝える。
観光の島・ハワイは「安全で健康」にブランディング転換
前半に行われたショートレクチャーで、沖縄県医師会理事の玉城研太朗医師は中長期的ビジョンとして、「大規模災害によって引き起こされた不況のしわ寄せは、社会的弱者に来る。それに耐えられるような沖縄県経済を作っていく必要がある」と、経済基盤の強化の大切さを訴えた。米国のシリコンバレーの平均年収は約1300万円と、沖縄県の4倍近くであることを提示し「吹けば飛ぶような将棋の駒になってはいけない」と呼び掛けた。
今回のような観光業の縮小を補えるような経済体制が必要だとし、平成29(2017)年度の県民総所得約4兆3000億円、うち観光関係の波及効果が約3割、約1兆1700億円を、令和20(2038)年度には県民総所得約15兆円、うち観光関係の波及効果が約2割、約3兆円まで引き上げることを提唱。観光産業を伸ばしつつも、全体的な依存度を抑えてリスク分散につなげたいとした。
天文学者の嘉数悠子氏は拠点のあるハワイから報告した。
嘉数氏はまず、沖縄と同じく観光で主要産業であるハワイでは、これまで失業率が全米最低の約3%でありながら、コロナの影響で全米最高の約34%に跳ね上がったことに触れた。その上で、“コロナ後の社会”の到来で観光産業の在り方を見直す必要から「ハワイ州観光局はブランディングを変更している。今までは『綺麗なハワイ』を売っていたが、これからは『安全で、健康なハワイ』を売っていく」と説明。観光客の数ではなく、平均滞在日数や消費額を伸ばすことに注力しているとした。
コロナであぶり出された沖縄の問題をプラスに変える
後半は、沖縄県新型コロナウイルス対策サイトプロジェクト世話人で、沖縄市観光振興課主幹の宮里大八氏の進行で総合討議が行われた。
この中では、沖縄県の玉城デニー知事は「これからはwithコロナの世界を生きていく必要があります。これまでは一時の対策だったはずのうがい、手洗い、マスク、三密回避は当然の生活様式となる」と、対策を続ける必要を説き、事業者や店舗がウイルス対策をしっかりしていることを明記することで、安心安全の沖縄を作っていくことを呼びかけた。
嘉数氏は、ハワイにいるウチナーンチュや県系人にメッセージを求められると、「来年は世界のウチナーンチュ大会がある。みんなで頑張って、ちむぐくるとゆいまーるで助け合いながら、世界共通の笑顔を作れるように頑張りたい」と応えた。
「おきなわ、休業中。」のメッセージキャンペーンでSNS上でも話題となった沖縄やーぐまいプロジェクトの石垣綾音氏は、「口火を切ること」の大切さを指摘した。さらに、「考えを可視化することでいろんな仲間がいるという心強さを得た」と活動の背景を語り、違う意見も同時に集まることで「学びがあり、考えを深めるきっかけとなった」と振り返った。
さらに、「観光一辺倒の産業構造は持続可能ではない」と述べた上で、「コロナがあったからこの問題が起こったのではなく、コロナがあったから問題が分かりやすくなった」と指摘。「よりよい沖縄を作るチャンスとしたい」と前向きな姿勢を見せた。
同プロジェクトの北林大氏は、今回のような危機で起こる物資不足や物流の停滞を想定し「自給自足・環境配慮の啓蒙」も含めた新しい生活様式について提起した。
沖縄県の食料自給率はカロリーベースで30%前後の低水準で推移しており、自給率向上と地産地消への取り組みを強化するよう訴えた。地球環境にどのように配慮していくかの一人一人の選択が重要だとし「地球規模の過剰開発がウイルス蔓延や自然災害がとして返ってくる」と警鐘を鳴らした。
離島ならではの医療・経済の弱さも指摘
前竹富診療所医師の石橋興介氏は離島医療の観点から提言。小規模離島の医療体制は「医師、看護師、事務の3人態勢のケースが多く、脆弱です」と、そもそもウイルスを島内に持ち込ませない取り組みが必要だとした。
また、離島からの患者搬送の場合、誰かが付き添うことになるため、その際の感染リスクの高さも指摘した。
さらに石橋氏は、離島ならではの経済問題にも言及。「離島はどこも観光が主な産業であることが多く、観光客の激減で生活が大変」と医療のみならず経済での支援も訴えた。
中部徳洲会病院医師の新屋洋平氏は、新型コロナウイルスの影響で病院や介護施設が面会制限をしていたことから「コロナにかかっていなくても(この時期に)亡くなった方はあまり家族に面会できなかったという実情がある」と、コロナに直接無関係でも本人やその家族に対して発生してしまった物理的な距離に思いを馳せた。
withコロナ時代では「感染の恐れから人と人とのコミュニケーションを阻害している」と指摘。「今までのように自由に面会することが難しい」とした上で、面会には急に行かずに事前連絡する、その日に合わせて体調を整えるなど、“新たな形のコミュニケーション”が求められるとして、「沖縄を支えてきた高齢者を守るため、医療、介護、行政、家族の連携が必要です」と訴えた。
医師でタレントの友利新氏は、沖縄の知事や世論からの呼びかけに呼応して、GW期間中に沖縄を訪れるはずだった多くの人が渡航をキャンセルしたことについて「県外の方が沖縄を愛して、沖縄を想い、守りたいという気持ちがあったから。沖縄のファンに対して、どのようにして魅力をつなぎ留めていけるかが課題だと思う」と述べた。
さらに、このシンポジウムによって面識がない人が集まり一つの目標を向かうことを、「熱い思いを持った人が時間を共有し、発信するのが素晴らしい」と高く評価した。
居場所のない子どもたちにも深刻な問題
那覇市繁多川公民館長の南信乃介氏は、コロナで困りごとが生まれる中、地域がどのように支えになれるかなどについて述べた。
地域内に140部の貼り新聞を散りばめ、人同士の接触を避けつつ地域をつなげようとした取り組みを紹介。「(高齢者など)ネットで情報が取りにくい人を想定して作った。人の温もりや活動を通して孤立感を防ぐことに意義があったかと思う」とした一方で「高齢者の中にもネットを活用したいという声が増えている。そういった人への支援も必要だと思う」と今後の課題を示した。
自然に助け合って生きがいを感じられる地域コミュニティは「今後もし第二波が発生しても生きてくる」と、確固たる基盤の大切さを説明した。
子どもの権利問題に詳しい弁護士の横井理人氏は、新型コロナの影響で児童福祉の場がさらに限られてしまっている現状から「居場所のない子どもたちにとって本当に深刻な問題」と指摘。家庭内の理由で家を出て行く子どもたちの居場所は「劣悪な環境しかない」と語った。
施設で子どもたちを受け入れる場合、最初の時期で大人との信頼関係を築くことが大切である一方、居場所を転々としてきた子の受け入れは、コロナ感染リスクも伴うため隔離も想定される。「そもそも大人との信頼関係がない子が、最初から2週間隔離されるということも(関係性を作る面などで)ハンデキャップがある」と、多角的な観点から説明した。
オンライン化で教育現場の変革期待
課題解決型の人材育成などに取り組む株式会社FROGSの山崎暁CEOは、今回のコロナがもたらす社会的な変化について「オンラインでできることと、リアルでしかできないことを分けていく議論がされると思う」と描いた。
特に教育面では、社会のオンライン化が進むことによってネット上で「教えることの上手い人が不特定多数に教えることができるようになる」と、知識の伝え方に変化が起きる可能性を指摘。リアルな学校現場では「意見を交換したり心の成長をサポートしたりすることで、子どもたちの未来を養うことができる」とし、学校現場の負担軽減や教育の仕方を変えるチャンスだと捉えた。
未来を見据えて様々な意見が出されたことに、進行役の宮里大八氏は「沖縄は素晴らしいなと思った。未来に向かってわくわくしたい。コロナウイルスを正しく恐れながら、明るく前向きに進んでいくことが大事」と締めくくった。