仲井眞弘多元知事 「観光客を取り戻すためすぐにも動き出すべき」

 
仲井眞弘多氏 沖縄ニュースネット
取材に答える仲井眞弘多元知事=5月24日

「いつまでも萎縮しているのではなく、V字回復に向けて大胆に動き出すべきです」

 新型コロナウイルスの感染拡大により苦境にある沖縄の観光業について、元沖縄県知事の仲井眞弘多氏(80)はそう述べて、観光客を取り戻す取り組みを早期に進めるべきとの考えを示した。仲井眞氏といえば、2014年までの自らの県政で海外航空路線の誘致を積極的に進め、クルーズ船ターミナルや那覇空港第二滑走路の整備などを実現して、現在あるように沖縄を「観光立県」とした当の本人でもある。

 その沖縄の観光業が今回の事態で受けた打撃は極めて深刻である。4月8日に玉城デニー知事が県外からの来県の自粛を求めたこともあって、5月の大型連休期間中のJALやANAの沖縄路線の旅客数は対前年比95%減に。緊急事態宣言が解除された今も県内では営業再開に踏み切れないホテルが多く、観光客で賑わっていた那覇市の国際通りは人も疎らだ。

 沖縄観光コンベンションビューローの推計によると、新型コロナウイルスの影響で4月から7月までの入域観光客数は前年比で87%減、県内消費額も2,319億円減少するという。緊急事態宣言が解除された6月以降も観光客が戻る見通しは立たない。

 どうやって沖縄の観光業を回復させるのか。仲井眞氏が語った。

            ***

 玉城知事が来県自粛を求めたことは、難しい判断だったのでしょうが、県のトップとしては別のやり方があったのではないかと思います。もちろん、県外から感染が持ち込まれることに制限をかけなくてはならなかったのですが、「ヤマトから来る人は新型コロナに感染している」と言わんばかりで、これでは感染が収まってもなかなか観光客は戻って来ない恐れがあります。

 沖縄では医師をはじめ医療関係者の頑張りによって、感染の拡大を抑え込むことができました。しかしながら、どん底まで落ち込んだ観光客数をどうやってこれから取り戻すのか、これまでのところ現在の県政からは具体的な対策が見えてきません。観光業は飲食や運輸、食品と関連産業も多く、いまの状態が長引いてしまうと沖縄の経済にあたえる影響は非常に深刻なものとなります。

 玉城知事は5月21日に県内の休業要請を解除しましたが、来県の自粛は31日まで求めるとしました。はたしてそこまで延ばすべきなのか、私には疑問です。観光の目玉である本島北部の美ら海水族館もまだ休館しているそうですね。すみやかに観光業の回復に向けた具体的な対策を打ち出すべきタイミングです。

那覇空港ターミナル 沖縄ニュースネット
閑散とした那覇空港ターミナル=5月24日

のんびりし過ぎではないか

 沖縄への観光客は、地域別では東京周辺から来る人が最も多いのですが、その東京都や神奈川県、埼玉県、千葉県は緊急事態宣言の解除が他の地域より遅れました。そのため、東京周辺はすぐには難しいとしても、それより早く解除された関西や名古屋、福岡などの大都市圏では、観光客を取り戻すための営業にすぐに走りまわってもいいのではないかと思います。その時には旅行クーポンの配布というのも有効な手だと思います。

 海外からの観光客については入国制限がかけられている状態であり、早急に動かせる問題ではありません。まずは国内からの観光客の回復を優先すべきです。すぐにも準備をして、6月になれば脱兎のごとく始めるべきです。そうしなければ、夏に国内で旅行意欲が戻ってきても間に合わない。

 私が知事だったら、沖縄の土産を持って営業のため自分で全国を歩きますよ。いまの県の対応はちょっとのんびりし過ぎではないでしょうか。

 ただし、これは県だけではありません。県内の各企業もそうです。「国が、県が」と行政の対応ばかりに頼りきろうとせずに、どんな状況にあっても自らが生き延びる手立てを講じるべきではないでしょうか。沖縄は中小の企業が多いことを挙げるかたもいらっしゃるが、企業家らしくない。私には企業の皆さんがこの事態にやや萎縮してしまっているように映るのです。

 行政に依存するのではなく、企業家精神を取り戻して客や従業員のためにぜひ知恵を出して頑張ってもらいたい。

 そうは言っても、行政の支援は欠かせません。とりわけ資金繰りと雇用の確保。これが大切です。従業員は一度手放すと、すぐには戻ってきません。行政はしっかり支援メニューを整えて、企業をバックアップする体制を構築すべきです。

命と経済の両立を

 もちろん、観光業の回復を急ぐあまりに、感染対策がおろそかになることは絶対にあってはなりません。私が専門家に聞いてみても、秋口に感染の第二波が来るのではないかとの予測もあるとのことでした。それがゆっくりとやってくるのか、急速に拡大する形でやってくるのか、予測することは難しいようですが、しっかりとした備えは欠かせません。

 私のように経済活動の再開を早々に進めるべきと主張すると、命をないがしろにするのかと非難する人がいるかも知れません。でも、私は命か経済かという二者択一の議論は乱暴だと思うのです。そうではなく、命と経済の両立を実現していくべきです。

排他的なものを感じる

 また、今回の事態の推移を見ているうちに私が気になることがあります。米国のトランプ大統領が「アメリカ・ファースト」などと唱えたりしていましたが、それと似たエゴイズムを感じる局面があるのです。例えば、自分の県だけを囲って守ろうとする。そして県外からは「来るな」と言う。さらにそれを支持する人たちがいる。そうした雰囲気を見ているうちに、この同調ぶりはなんだろう、と思うのです。なにか排他的な嫌なものを感じずにはおれません。

 いま国際通りはぱたりと観光客の姿を見ることがなくなりました。「人が少なくなっていいねえ」、「交通渋滞もなくなったねえ」と、これを歓迎するむきもあるようです。ただ、これは仮の姿なのです。いつまでも続くという訳にはいかないのではないでしょうか。

 いまは県外から観光客が来ることへの心理的な抵抗感があるのかも知れません。でも、沖縄は歴史的にも国際交流の十字路だったはずです。多くの人たちが行き交うことで豊かな文化を築いてきたのです。本来の私たちを取り戻そうじゃありませんか。

国際通り 沖縄ニュースネット
人も疎らな那覇市国際通り=5月24日

 私は海外からの観光客についても戻ってきてもらう手立てを考えていくべきだと思います。台湾など日本より早くに新型コロナウイルスの封じ込めに成功した国もあります。台湾から見れば沖縄は近いですし、そろそろ海外に出たいと思ったときに真っ先に思い浮かべてくれるのではないでしょうか。水際で体温のチェックをするなどの対策を整えつつ、まずはそうした国から入ってきてもらうことを可能にするといいと思います。

 振り返ってみると、私の知事時代に海外からの観光客の誘致を進めたのは、国内からの観光客の伸びが頭打ちになっていたからでした。中国からの航空路線を誘致するために中国には御百度を踏みましたし、県の北京事務所も開設しました。欧州からの直行便の誘致を目指したこともあります。欧州からはリゾートとなると、タイのプーケット止まりでしたので、もう少し足を伸ばしてぜひ沖縄へ、と取り組んでいたのです。

 私が知事に就任した2006年に9万2千人だった海外からの観光客は、退任した2014年には98万人となり、昨年は293万人にまで増えました。

 キャパシティが限界に達していた那覇空港についても、政府にかけあって第二滑走路の工期を7年から5年10か月に短縮してもらい、今年3月の供用開始に漕ぎ着けました。ところが、その供用開始が感染拡大の時期と重なってしまったのです。3月末に行われた記念式典に出席された菅義偉官房長官が、観光客がいなくなり閑散とした国際通りを同じ日に視察するという事態です。まるで崖から突き落とされたような気分を覚えなくもありません。

 それでも私はまた再び沖縄の観光業は力強く復活を遂げると信じています。まずは、すぐにも誘客に動き出して大胆にV字回復を狙っていくべきではないでしょうか。ぜひ県にも企業の皆さんにも頑張ってもらいたいと願っています。

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