芸術は「確かな希望を与えてくれるもの」 文化芸術を巡る対話、なはーとダイアローグ

 

「生きるために必要なもの」としてのアート

 後半に入ると、まちづくりファシリテーター・石垣綾音さんが進行を務めてそれぞれの登壇者に文化芸術と行政を巡る話題について質問した。

 事前に寄せられた文化行政の重要性となはーとへの期待について書かれた市民からのコメントを受けて、林さんは「文化を享受する権利は基本的な人権の一部だという考え方があります。それに基づいて、娯楽以外の部分で社会にとって重要な表現活動や新しい価値・考え方を提示してくれる表現を共有したり、世の中の問題に柔軟に対応できるのが文化施設だと考えています」と説明した。

なはーと企画制作グループ長の林立騎さん

 例えば、学校のカリキュラムを変えるには煩雑な行政的手続きと時間が必要だが、今現在問題になっていることを話し合ったり、その問題を表現にして共有することは「文化芸術だと柔軟に出来る」と林さんは語る。

単に経済的なメリットだけではなくて、今のこの社会の中で『良い生き方』みたいなことを探っていくためには文化芸術が大切です。そんなことを意識しながら、今後のなはーとを展開していきたいですね」

 社会の中でのアートの役割について聞かれた山城さんは「はっきりと分かりやすい位置づけは…」と言葉に詰まりつつも、「最初に社会のために作るというわけではなく、自分の中から出てきたものを掘り下げていくと、自分だけではない多くの人の悩みにつながって社会とぶつかるんです」と説明。「役割というよりは、希望を与えてくれるものというのは確かなことだと思います」と語った。

 小林さんは「生きる糧になります」と続ける。「何度も観ている作品にも、観る度に心動かされる。芸術は人を生かすもので、人間にとって重要なことだと伝えていきたいですね」。社会と芸術とが別個に相対的にあるものではなく「芸術がある社会が当たり前なんです」と強調した上で、「芸術を特殊なものと考えるのではなくて、身近で、生きるために必要なものとして考えてもらいたいですね」と話した。

 那覇市として文化行政をどう位置づけるかという問いには、知念市長が「文化は人の人生を支えてくれるものだと思っています」と応じ、「色んな方の生きる術であるということを基本にしながら、どんな施策を展開するのがいいのか考えていきたいです」と述べた。

知念覚那覇市長

格差を作らない事業展開を

 来場者からの質疑にもそれぞれの登壇者が答えた。会場からは那覇市の文化行政への要望、制度設計、官民の役割分担、財政、雇用など、多岐に渡って多くの質問が投げかけられた。さらに現役美大生からの創作活動への姿勢についての質問も飛び出し、イベントのタイトル通りに“対話”が重ねられた。

 最後のまとめでは、小林さんが困窮学生が増えている現状を指摘しつつ「経済格差を文化格差にしないような事業展開をしていく必要があると思っています」と訴えた。山城さんは「今回のように語り合える場を持てたことは素晴らしいと思います」と感想を述べ、「次は向かい合うのではなくて、一緒に芸術を鑑賞することもできるのではないでしょうか?」と知念市長に提案した。

 なはーとダイアローグは市民との対話の場として、シリーズとして継続している。次回の第3回は2023年1月22日に開催予定となっている。

■関連リンク
「なはーと×ジュンク堂書店那覇店」でコラボ 文化発信拠点で地域連携 ‖ HUB沖縄
これからの「なはーと」について考える 市民生活と文化芸術語るシンポ ‖ HUB沖縄

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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