これからの「なはーと」について考える 市民生活と文化芸術語るシンポ
- 2022/4/11
- エンタメ・スポーツ
那覇の市民生活の中で「文化芸術」がどのように位置づけられるのかを考えるシンポジウム「文化芸術ってなんだろう?」がこのほど、那覇文化芸術劇場「なはーと」で開かれた。
2021年10月にオープンしたなはーとのこれからのあり方を、市民との対話を通して模索していく試みだ。今回はまちづくりや市民活動、教育、福祉などの分野で活動する人たちを登壇者に招き、それぞれの視点や立場ならではの意見を出し合った。
「那覇の文化の発信拠点」としての期待も募る一方で、その期待と現状に「ずれ」が生じていることを指摘する声も上がるなど、これからのなはーとを考えるための対話の場となった。
伝統文化は生活から立ち上がる
トップバッターで話をしたのは那覇市文化協会会長の崎山律子さん。戦後の那覇で市場を切り盛りしていた女性たちが、年に1度の楽しみとして女性だけで構成された劇団「乙姫劇団」の公演を観劇していたというかつての那覇の生活史に触れた。
「芝居を見ている時の祖母や母の表情がとても生き生きしていたことが、幼い頃の記憶として残っているんです」と振り返った崎山さんは、伝統芸能が「生活から立ち上がってきたからこそ続いてきたし、豊かになりました」と説明。
「どんな時代にも奪われることのない、文化の根を張ることが重要」と強調し、「人々が集って文化を発信できる場所になってほしい」と話した。
「バリアフリーに不足」「期待とずれ」厳しい意見も
地域活性化のための活動に取り組む「チームまちなか」の仲根建作さんは、なはーと建設前に同所にあった久茂地小学校の廃校を巡る問題で行政との話し合いを重ねた。この経験を踏まえつつ、なはーとが「新しい地域の宝になってほしい」との思いで、市が企画したワークショップにも積極的に参加してきたという。
その上で、これまでのなはーとの運営などについて市民参加の観点から「部局横断的に市民からの意見が共有・反映されていないように感じる」と意見を述べた。また、車いすユーザーでもある仲根さんは、なはーとのバリアフリーについて「基礎的な部分はよくできているが、情報バリアフリーやユニバーサルデザインの面で不足している部分がある」と指摘した。
「周辺駐車場のマッピングが必要」「公務員的な対応を改善してほしい」「理念・コンセプトが見えない」。若杉福祉会理事の屋宜貢さんは、シンポジウム前にオンラインミーティングでなはーとについて様々な人たちと交わした意見を共有した。
その中で「市民それぞれになはーとへの期待があるのですが、その期待と現状にずれがあって、がっかりしていることもあるんです」という厳しい言葉も飛び出した。
屋宜さんは市民の文化芸術活動を「幸せを広げる平和活動」と位置づけ、その重要性を強調。「文化芸術活動に予算を使える市町村は素晴らしい街になります」と言い切り、今後のなはーとに期待を込めた。
「新しい価値や視点を生み出す」
文化芸術の役割について「新しい価値や視点を生み出したり、忘れられていたことを呼び起こすこともあります。さらに、異種のもの同士を結びつける力もあるんです」と説明した沖縄県立芸術大学美術工芸学部准教授でアーティストでもある阪田清子さんは、表現者としての立場から意見を述べた。
「文化芸術」という言葉が抽象的で大きな枠組みを表すものではあるとはいえ、あくまで「形成しているのは個人」と補足した上で「感覚と芸術表現には表現者1人1人の違いがあって、その差異こそが瑞々しくて魅力がある。そして、その差異を認めることが他者を認めることなんです」と語った。
那覇市主催、企画制作をなはーとが担うこのイベントは文化芸術と文化施設としてのなはーとの意義や可能性について議論し、より豊かな市民生活を築いていくことを目的の1つとしている。シンポジウムは各登壇者が意見を述べた後、城間幹子那覇市長や那覇市若狭公民館館長の宮城潤さん、そしてまちづくりファシリテーターの石垣綾音さんがそれぞれコメントをつけていく形式で進められた。
今回のイベントは登壇者の専門分野がバラエティに富んでいて、多面的な議論が繰り広げられたため、多くの論点が示された。それゆえ、今後はそれぞれのテーマをさらに掘り下げていく必要性がありそうだ。
こうした対話を重ねていくことで、これからのなはーとが文化芸術と市民生活とを接続する場所として展開していくことを期待したい。