水難時に居場所発信!那覇の企業が機器開発 県内の領海ほぼ網羅

 

「捜索する側」の効率化にも

「SEAKER_L3」(QUADRA PLANNING提供)

 同製品には緑と赤の2種類のボタンが搭載されている。緑の「CALLスイッチ」を5秒間長押しすると、電波を発信すると共に事前にペアリングしていたアプリの持ち主に通知が行き、赤の「SOSスイッチ」を9回連打すると、専用アプリ保持者全員に位置情報が公開されると共に、事前に登録しておいたメールアドレスにも通知が行き、迅速な救難行動につなげる。今後は、万が一の時にボタンを押す余裕がない時にでも、使用者と機器が一定の距離から離れたら信号を発信できるような機能も実装していく予定だ。

 緑のスイッチは、救難以外の用途も想定している。例えば、ダイビングを楽しむ人が船に戻るタイミングで押せば、業者の船が迎えに行くという仕組みだ。飯野社長は「救難時でなくても気軽に使える緑のボタンがあることで、バッテリーの状態など、日常的に動作テストができます」と、普段使いをしながらいざという事態に備えられるメリットを語る。

 SEAKER_L3は、水難者が身に着けて位置を知らせる使い方の他にも「水難者を捜索する側」が使っても効果的だ。すでに捜索活動を行った水域を複数の捜索者同士が共有することで、未捜索ゾーンを即座に認識でき、水難者の場所をどんどん絞り込むことができる。

捜索した範囲を船同士で共有できる(QUADRA PLANNING提供)

海の安心安全「どうにかしなくちゃ」

 製品の開発には3年を要した。飯野社長はもともと、ダイビングの器材メーカーに約30年間務めていた経験があり、長らく海での安心安全の重要さを身をもって痛感してきた。退職し、海が好きで沖縄に引っ越してきた矢先、衝撃的なニュースを目にする。インドネシア・バリ島で日本人女性7人がダイビング中に遭難し、うち2人が死亡した事故だった。引率していたインストラクターは、沖縄から向かっていた人だったという。

 この事故を受け、前職で付き合いのあった沖縄のマリンスポーツ事業者から「漂流しても助かるようなアイテムが欲しい」との声が飯野社長に届けられたのも、この頃だ。「海での遊びはリスクを伴います。観光事業は沖縄経済の大きな柱の1本ですから『どうにかしなくちゃ』という思いで始めました」

 その中で、通信規格「ELTRES™」を活用して、人命に直接関わる製品を開発するに至った。ソニーネットワークコミュニケーションズの担当者である深田純平さんは「海洋レジャーの安心安全にこの技術を応用してもらってありがたいです。QUADRA PLANNINGさんの取り組みは関心を集めています」と話す。

 対して、飯野社長は「人命に関わる製品開発は、(大きな責任が伴う分)やりたがらない人も多いです。でも、ソニーさんは『人の安全を守ることに繋がるのならば』という熱意を持って考えてくれました。不良品を出さないという自信に裏打ちされた技術力に加えて、その熱意があったからこそ実現できました」と感謝する。

 飯野社長はこう語っていた。「メーカー勤務時代にやり遂げられなかった仕事を、今さらですが、埋め合わせているんですよ」。海の楽しさをよく知っているからこそ、海での安全を守りたい。その思いが詰まった言葉だった。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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