ずっときれいな海で潜りたい 水中ゴミ拾い専門店「Dr.blue」の挑戦

 

色褪せることのない青

 東さんは“海無し県”の奈良県に生まれ育って、もともと海への興味を持ってるわけではなかった。しかし、とあるきっかけで初めて沖縄を訪れた際に「海に完全に一目惚れした」という。その時目にした海の青さが忘れられず、2020年の秋に沖縄に移住した。「最初に見た海の青さと、その時の思いは今でも全然色褪せてません」

 これだけ海に魅了されたのは、社会人になって暫く時間が経ち、社会の波に揉まれる中で疲れを感じていたというタイミングも大きかったという。「海の圧倒的な自然の世界に触れて、これまでに感じたことのないたくさんのことを感じたんです」。

 ダイバーの視界に広がる水中の世界は、水面からシュノーケルで見下ろす景色とは違う。「魚たちと目が合う場所まで潜っていくと、見え方も体感も文字通り別世界なんです。潜るようになって、命の尊さと美しさをこれまで以上に感じるようになりました」と語る東さんの視線は、海中の青い世界に向かっている。

ナカモトイロワケハゼが住むビン(「Dr.blue」WEBサイトより)

 こうした自身の体験も踏まえて東さんは「ダイバーがノンダイバーに伝えられることはたくさんあるし、ダイバーとして出来ることもまだまだたくさんあると思っています」と話す。

小さなアクションの積み重ねを信じて

 環境保護団体「WWFジャパン」によると、海に漂ったり、海岸に流れ着いたり、そして海中に埋まっている様々な海洋ゴミの7~8割は陸地から出たもの。環境問題に関してプラスチックゴミがよく話題に上るが、海に流れ出たレジ袋は20年、ペットボトルは400年以上分解されずに漂い続けるという。

 「無関心ではいられますが、無関係ではいられないのが環境問題です」と東さんは強調する。水中だけではなく、地上でも日々当然のようにゴミ拾いをしている。Instagramのストーリーでは「いつまでもきれいな海で潜れますように」という文言を添えて、「1日1ゴミ」を拾う様子が毎日アップされている。

 ゴミ拾いはシンプルだが、それゆえに自分が拾った成果が目に見えるので、その分だけ確実に拾った場所をきれいにしたことを実感できる。そして水中でも地上でも、このアクションによって損をする人間や生物は1人も、1匹もいない。

「Dr.blue」WEBサイトより

「例えばプラスチックゴミは、大量生産したから海洋ゴミになるのではなくて、『誰かが拾うだろう』と思って捨てる人がいて、それを拾う人がいないから海に流れ着きます。そう考えると海洋ゴミや環境問題は、人の心から始まるものでもあると思うんです。
 だから1人1人が目の前のゴミを拾うことに意味があると思えるようになることがとても大事です。小さなアクションを信じて積み重ねていけば、その小さな点がたくさん集まっていつかは海のためになる。心で向き合うことを忘れてはいけない、と思いながら私も日々小さな1歩を重ねています」

あくまで「カジュアルに楽しみながら」

 Dr.blueでは今後、水中ゴミ拾いに加えて、回収したゴミを日常生活で使える物品にアップサイクルすることにもチャレンジしていく予定だという。「自分が拾ったゴミから作られたものを日常の中で使うことで、ふとした時に自分が環境にプラスになるアクションをしたことや、きれいな海のことについて考える瞬間が生まれたらいいなと考えているんですよ」(東さん)

 「ずっときれいな海で潜りたい」という東さんの思いからスタートした水中ゴミ拾い。開業するまでは完全ボランティアで取り組んでいたが、今は客として訪れる“協力者”たちの手も加わって回収量は3~4倍に増えた。

 東さんは「決して押し付けるわけでもなく重たくならず、気軽に取り組むことが出来るということを伝える方法を考えながら、そして自分自身も楽しみながら地道に活動の輪を広げていきたいです」と抱負を語り、眩しい笑顔を浮かべた。

■関連リンク
Dr.blue WEBサイト
東 真七水さんInstagram

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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