平井鳥取県知事のスピーチはなぜ沖縄県民の心に刺さったのか 復帰50年式典
- 2022/5/17
- 社会
沖縄県外出身である平井知事にとっては、沖縄の言葉で書かれた歌詞を覚えるだけでも大変だっただろうし、昔から知るメロディでもないはずだ。鳥取県知事という忙しい日々の中でわざわざ時間をかけて曲を覚えてくれた真摯さがうれしかったし、多くの人が注目する中で歌うという、少なからず勇気が必要な行動をもって気持ちを伝えてくれたその姿勢に、大きな拍手が送られたはずだ。
そこには、小手先ではない真心のようなものが感じられた。そう考えると、冒頭のウチナーグチでのあいさつに不自然さを覚えてしまった自らの邪心を恥じるほどだった。
歌詞の意味をスピーチに重ねて
歌い上げた後に平井知事は『てぃんさぐぬ花』の歌詞の訳でもある「ホウセンカの花の色を爪に染めるように、親の言葉も心に留めてね」という意味に重ねながら、こう続けた。
本土復帰後半世紀にわたり、親から子へ、子から孫へ受け継がれた願い。てぃんさぐは、爪に染めて魔除けになります。困難を打ち払い、希望溢れる未来へ。チムドンドンするウチナーを目指し、沖縄県と共に、全国知事会は邁進して参りますことを、ここにお誓い申し上げます。
挨拶は「カリユシヤイビン。イッペーニフェーデービタン」(おめでとうございます。ありがとうございました)とウチナーグチで締められた。そこにはもはや、何の不自然さもなかった。
THE BOOMの『島唄』と重なるチムグクル
式典後のレセプションは、音楽家の宮沢和史さんらによるステージでフィナーレを飾った。『島唄』で知られる宮沢さんが、THE BOOMで同曲をリリースした際には、一部の沖縄県民から「県外出身者が沖縄民謡の真似事をするな」と批判されたという逸話があるが、この曲はあっという間に沖縄で受け入れられた。宮沢さんが沖縄に寄せるチムグクル(真心)が本物だと、県民がすぐに気づいたからだ。
この現象が、今回の平井知事のスピーチと重なるように思えたのだった。
うわべだけの沖縄イメージが消費されていき、“ネット民”の言論空間では空虚な「沖縄論」が繰り広げられる分、しっかりと沖縄に向き合ってくれる人々に対する沖縄県民のセンサーは敏感だ。
そしてその一方で、私自身も沖縄以外の都道府県が抱える想いにしっかりと目を向けられているだろうかと再考させられる好機ともなった。平井氏や宮沢氏のように、知らないことや理解できないことがあっても、知ろうとすることや理解しようとする心こそが大事なはずだ。復帰50年の節目に少しでも地元・沖縄を感じようと、普段あまり飲まない泡盛をちびちびと飲みながらパソコンの打鍵音を鳴らした次第だった。