【復帰50年】「沖縄は試されている」元副知事・上原良幸さんインタビュー

 
「20年以上前から『持続可能な開発』をテーマに議論していた」と米軍基地の跡地利用について語る上原さん

 ―沖縄の発展・振興という面では、どういった方向性を目指した方がいいのでしょう。最近は「SDGs」という言葉もよく目にするようになりました。

全く無いものを作るんじゃなくて、もう出来てるところからどう展開するかを考えないといけないと思いますよ。

 かつて『県土の均衡ある発展』という方向性で施策を展開したこともあったが、“均衡ある発展”で成功した例はない。かつて田中角栄が日本全体でこれをやろうとしてたがどうなったか。均衡ではなく、地域ごとの“特色ある発展”を目指すべきであって、賑わいだけで判断すべきではないんです

 何度も言いますが、具体的な話をしていかないといけない。例えば先ず、基地をどうするか。20年以上前、1998年に国際コンペをした時、僕らは嘉手納基地まで踏み込んで絵を描いた。ドイツやスペインも視察して、この当時から『持続可能な開発(サスティナブル・ディベロップメント)』という観点で基地の跡地利用を考えた『沖縄モデル』を提案したんです」

 ―なぜこの案が現在に生かされてないんですか?

「県政が変わったからですよ。このコンペに関わった東京の人間やドイツの人たちからは『どうなってる?』という問い合わせもありました。
 『沖縄が何を目指すか』という視点から、跡地利用の色んな可能性について議論しました。今後車が空を飛ぶというのも夢じゃない時代になってくる。自動運転車両の運用も視野に入れたモビリティの議論もしていた。が、こうした議論が県政が変わって一瞬にして消えました。一緒にやった連中はびっくりしてましたね。『こんなことがあるのか』と」

 ―この“県政総とっかえ構造”を変えることはできないんでしょうか。

「近代沖縄と括っていいと思いますが、戦前から沖縄の公的機関の指導的な立場の人は皆ヤマト(本土)から来ていた。要するに、ちゃんと仕切れる人が沖縄にいないんです。戦後は戦後で米軍が上に立った。自分らで沖縄を作る、構想する、どういう島にしていけるのかという検討をする人もいなかったし、できなかった。だから復帰前の振興計画も正直言ってあまり具体性はありません。

 問題は復帰後もそれがずっと続いていることです。具体的な根拠には関心がなくて、そのくせそこをすっ飛ばして独立論とかにいってしまう。何でメシを食うかという視点が無い。お金を自由に使ってくださいと言って予算を渡されても、沖縄県はそれを要りませんとさえ言う。これは『自分で考えることはできません』って言ってるに等しいですよ。交付税がいかに少ないかというところに表れていると思います。本来は復帰後、それこそこの50年でこうした部分で突っ込まなければならなかった。

 県庁の中に、セクションを超えて議論ができる場を作らないといけないと思います。今はアフターファイブの飲み会も難しくなっているから、昼飯食べながらでもいい。どんどん議論する空気が必要です。ところがそういうことをした時に、またイデオロギーの話が顔を出してくるとめんどくさくなる(笑)」

 ―問題の“変わらなさ”が顕著で、50年間という時間が重くのしかかりますね…。

「復帰50年という節目で沖縄をどうするかを考える時期だということだけれど、今だけじゃなくてこの50年間がずっとそうですよ。さっき言ったように県政が変わる度に全部やり直しになるから蓄積が無い。それを積み上げていかないと。

 50年の節目ということで、かつてないほど盛り上がっているけど、肝心な行政は全く盛り上がっていないでしょう。これが終わったらもう見向きもされなくなるんじゃないかと思ってしまいますよ。

 この後復帰60年になってもまだ『沖縄をどうするか』って議論してたら恥ずかしい。『ガバナンス』とは何か、地域をどうしていくか、ということに向き合うことを継続できるようにしないと。そしてガバナンスを分かっている人をガバナー(知事)にしないといけません。それが行政のあるべき姿だし、健全な運営が出来る条件だと思います」

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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