【再掲】安倍政権と沖縄 仲井眞元知事が振り返る
- 2022/7/9
- 政治
安倍晋三元首相が8日、奈良市内で参議院選挙の応援演説中に銃撃を受けて死亡した。白昼に大勢の市民が集まるなかでのテロ事件に、沖縄県内でも衝撃を持って受け止められた。
首相在任中の安倍氏は沖縄とも関わりが深く、2020年8月に首相を退任した際には、HUB沖縄では仲井眞弘多元知事に「政府と沖縄の新たな関係の模索の始まり」と題して安倍政権と沖縄をテーマに振り返るインタビューを掲載した。以下、あらためてこのインタビューを再掲載する。
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歴代最長の7年8か月にわたって政権を運営してきた安倍晋三首相が8月28日に辞意を表明した。現在は自民党総裁選の真っ最中である。長期にわたった安倍政権は沖縄になにを残したのか。沖縄の基地問題や経済振興どう取り組んだのか。2014年12月まで沖縄県知事を務めた仲井眞弘多氏に聞いた。
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私は2006年12月に知事に就任しましたが、ずっと日本の首相が1年おきに変わるような状態が続いていました。そういう意味では第2次安倍政権になってようやく腰を据えて沖縄のあり方について話をできる相手が現れた思いがしました。
沖縄の基地問題のような困難な問題は、政権が目まぐるしく変わるようでは、とても腰を据えて取り組むことはできません。
家父長的優しさから自立に向けた新たな関係に
自民党にはこれまで旧田中派に沖縄と深い関わりを持つ政治家が多くいました。橋本龍太郎さん、小渕恵三さん、野中広務さん、梶山静六さんたちがそうです。その源流は鹿児島県出身の山中貞則さんでしょうか。かつて琉球王朝を征服した薩摩の人間として山中さんは贖罪の意識から沖縄に特別な思い入れを持ち、家父長的な優しさで沖縄にシンパシーを感じてくれました。復帰後、しばらくは本土と沖縄の格差は大きかったですから、こうした政治家たちに非常に助けられたのは事実です。
その一方で、沖縄の自立を促すという観点では、いつまでもこうしたお父さん的な深情けを示してもらうことが良いことなのかと私は感じていました。
すでにこうした政治家たちは亡くなり、新しい世代が国政を担う時代となっています。安倍首相や政権で沖縄の基地負担軽減を担当した菅義偉官房長官はそうした新しい時代を象徴する政治家です。政府と沖縄の新たな関係の模索が始まったと言えます。
ただ、旧来の政治家と違うからといって、安倍さんや菅さんが沖縄のことをよく知らないかと言えば、そうではありませんでした。沖縄振興や予算確保のことも、米軍との緊張をともなう関係のこともよく事情を理解されていました。さらに国論が分かれるような問題についてもしっかり取り組んだと思います。
じつは、首相に返り咲いたばかりの安倍さんと2013年2月に初めてお会いした際に、私は米軍普天間飛行場をなぜ県外に移せないのか、いま一度だけ米側と協議してもらえないか、そう申し上げたことがあります。沖縄から遠くない九州には利用頻度が低い空港がいくつもあります。利用頻度が高い那覇空港だって自衛隊と共用しているくらいですから、そうした空港を活用すれば、海を埋め立てたり、コンクリートを打ったりせずに、すぐに使えるではないかと訴えたのです。
ただ、この問題についてはきちんとした返事をもらえることはありませんでした。菅さんからは、「日本は戦争に負けたから、米国には弱いんですよ」との話はありましたが。
私はこの件では日米の官僚たちの抵抗が非常に強かったのだろうと思っています。とりわけ日本の外務・防衛官僚の間では、「沖縄はそろそろいい加減にするべきだ」という発想があるのではないでしょうか。ひとつ話を聞いたら、ズルズルと要求がエスカレートすると。そうだとしたら、とんでもないことです。
この点を別にすると、安倍さんや菅さんはあの二人なりに懐が深いところがありました。なにかお願いや陳情をすると、「それは難しい」「無理だよ」と言った反応が返ってきがちですが、安倍政権ではまず「やってみましょう」という感じで、初めからノーではない。話がしやすかったという印象です。
最大の成果は観光振興
そうした中で安倍政権が取り組んでくれた最大の成果が、沖縄観光の振興だと思います。とりわけ海外からの観光客の誘致では、中国人訪問客へのビザ発給要件の緩和や那覇空港の第二滑走路の建設などが実現しました。特に第二滑走路の建設は、これほどの大型事業なのに安倍政権の間に企画立案から完成に至るまで漕ぎ着けました。
こうしたことは強いリーダーシップなしにはあり得なかったでしょう。沖縄県からの要望に応えて、政権が大幅に工期を短縮してくれました。残念なことに、完成のタイミングが新型コロナウイルスの感染拡大と重なりましたが、第二滑走路がさらなる観光振興につながるブースターの役割を果たしてくれるものと考えています。新型コロナの感染拡大前には沖縄県の失業率や有効求人倍率、そして最低賃金が他府県並みに到達しましたが、これらは観光が牽引役となって県経済を押し上げたおかげです。コロナの収束で再び経済が好調さを取り戻すことを強く期待しています。
また、県民には身近なものではないかも知れませんが、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の予算を大幅に増やしてもらいました。沖縄で世界最先端の基礎研究が行われている意義は決して小さくないと考えます。
基地問題は段階的に整理縮小が現実的
普天間飛行場の辺野古移設をはじめ嘉手納以南の統合計画に十分な進展がなかったとの批判もあります。ただ、普天間飛行場の周辺で暮らす住民の安全をすみやかに確保するには現行計画しかないとの安倍政権の考え方に私も賛同します。新しい移設先を見つけるともなれば、またもや20年も30年もかかるでしょうし、そもそも米国が「うん」と言うかわかりません。
基地問題は情緒的ではなく、合理的に解決していかなければなりません。段階的に整理縮小していくことこそが沖縄の基地問題を解決する上で最も現実的なやり方です。