時も場所も超える「感覚で共有できる映画」 『ばちらぬん』東盛あいか監督インタビュー

 

劇中の「ハジチ」の意味

 ―琉球の入れ墨「ハジチ」を受け継ぐような、つないでいくような描写もありましたね。

「作中で一切説明はしてないので、知らない人からすると『あれは何なんだ』と思う方も少なくないと思います。

 ハジチは奄美諸島から与那国島にかけて広く伝わり、女性たちが様々な思いを込めてその手に突いた入れ墨です。意味付けや理由としては、成女儀礼、外から来た人に連れて行かれないため、あの世へのパスポート、魔除けなど地域や状況によっていれた理由や意味も異なり、見方が色々あるかもしれません。

 それが同化政策によって憧れの手だったりその土地の人たちの思いがある手が、社会認識が変わったことで見せちゃいけないもの、ダメなものとされてしまった歴史があります。それで現在も『悪いもの』としたりタブー視したりする人もいます。

 でも私はそんな面も含めて、良し悪しの判断とは別に『全て受け入れたい』と思ったんです。これも忘れ去られてほしくないから。私は当時の彼女たちの手を綺麗だと思うから。少し前にタブー視されたという軽い上辺の歴史だけで悪い印象を帯びて忘れ去られるのは違うんじゃないかと。

 そういう私自身の思いがあって、劇中にハジチが出てきます。女性蔑視だとか沖縄の文化じゃないという意見もありますが、これからの女性たちはその手に突かずともきっと大丈夫になっていけるという時代が来てると思うし、当時の女性たちが『醜い』と言われてしまっていたこと自体も受け止めたかったし、忘れたくなかったんです。

 今と当時の価値観は当然違いますし、今生きてる私たちの価値観で彼女たちを『かわいそうな存在』と決めつけることが彼女たちに対する侮辱になるんじゃないかなって。難しい題材だということももちろん自覚しています」

匂いと記憶を刺激する

 ―夕日を背景に2人でバンシルー(グァバ)をかじるシーンも鮮烈でした。沖縄の人が観たらきっと、強烈な香りを想起して画面の向こうの人物と共有できると思います。

「あのショットは夕日の時間を狙って撮りたくて撮りました。テイクはたぶん…5くらいは重ねたと思うんですが、OKカットが撮れた時に『今は良いのが撮れたでしょ』という空気感が現場を満たしていて、凄かったんです。

 グァバって独特な匂いじゃないですか。かじったことがある人は、絶対に覚えてるくらい。匂いと記憶は直結していて、忘れてたことを匂いで思い出すこともありますし。私はグァバの匂いで島を思い出すんですよね。

 言葉やセリフが少ない作品だから、観た人たちの嗅覚や記憶を刺激して感覚で共有できるような映画にしたかったんです。与那国を題材にした映画ですが、フィクションのパートが入ることで、与那国だけじゃなくてそれぞれの故郷やおじいちゃんおばあちゃんを思い出したりして、ちょっと振り返り立ち止まるきっかけになれたらいいなと思います」

 ―今後はどのような展開を予定していますか?

「ぴあで賞をもらって、スカラシップの挑戦権が与えられていて今企画を考えています。それが通ったらまた与那国で撮りたいんです。『ばちらぬん』はコロナに影響されて色々妥協した部分もあったので。

 あと今は台湾にも興味が出てきていて、与那国を知る上で台湾も知らないといけないなと。映画の作品作りが普通の人たちの暮らしに直接影響を及ぼせるわけではないけれど、映画を撮ることが島のためになればいいなと思いますし、もし台湾も絡めた作品を作ることができれば文化交流を通して島の未来のためになるんじゃないか、何か貢献できないかと考えてます」


 沖縄本土復帰50周年映画特集「国境の島にいきる」が4月30日から那覇市の「桜坂劇場」にて上映が始まっており、5月6日までとなっている。『ばちらぬん』のほか、2人のイタリア人作家が与那国の言葉にフォーカスしたドキュメンタリー作品『ヨナグニ~旅立ちの島~』の上映も行われている。
 5月7日から東京都「K’s Cimema」「UPLINK吉祥寺」で公開予定だ。沖縄を拠点に国内外の映画作品を扱う「ムーリンプロダクション」が配給を担う。上映時間などの詳細は公式サイトや劇場のWEBサイトで確認できる。

■関連リンク
「国境の島に生きる」WEBサイト
桜坂劇場 WEBサイト

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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