時も場所も超える「感覚で共有できる映画」 『ばちらぬん』東盛あいか監督インタビュー

 
東盛あいか監督

 「ぴあフィルムフェスティバル」で最高賞のグランプリを受賞した与那国島を舞台にした映画『ばちらぬん』が那覇市の桜坂劇場で公開中だ。監督は与那国島出身の東盛あいかさん。本作では監督のほかに脚本、撮影、編集、そして出演もこなしており、クリエイティビティ満ち溢れる活躍を見せている。上映時間は61分とコンパクトながら、東盛さん自身の島への強い思いや、「撮りたい」という創造力と欲求が生み出したイメージ、そして島の暮らしや自然がとてつもない密度で詰め込まれた映像は、鑑賞すれば多様な刺激を受けること必至だ。

 今回の東盛さんのインタビューでは、劇中の具体的なシーンにも触れながら演出意図やちょっとした裏話について話してもらった。撮影にあたっての自身のスタンスや、作中では明確に説明されない「ハジチ」の意図にも話が及び、さらには「トマトは絶対に視点になる」という強力なパンチラインも飛び出した。映画鑑賞後に読むと思わずニンマリしてしまう話もあるはずだ。

■関連記事:「私は忘れない」これからの与那国への祈り 映画『ばちらぬん』東盛あいか監督インタビュー


「その時に生まれるもの」の記録

 ―ドキュメンタリーとフィクションという違う手法が混ざりあった作品になっていますが、撮影はどんな感じで進めたのですか?

脚本7ページで出来た映画なんです。ドキュメンタリーは箇条書きで、フィクションの箇所は脚本“風味”で書いてるんですけど(笑)見せられた仲間たちもびっくりしたと思います。『これを撮るのか』と。ドキュメンタリー部分は島で自由に撮っていました。その時に生まれるものを映像に収めたかったし、自分が思い描いているものに舵をとるようなことをしたくなかったんです

 おばあと縁側で話しているシーンも、話が想定を超えて広がって思いがけず泣いてしまいました。おばあと縁側で話すという所までは決めてたんですが、おばあを演出するのは難しかったから、いつもの感じで話しかけて何が生まれるかを試したかった。島の民謡とか歌が書かれている本を持って行って、教えてもらう感じで話を広げようと思ったんです。

『ばちらぬん』のワンシーン

 ドキュメンタリーは初めて撮りましたが、木が自力で自然に育って枝葉が広がっていくように伸びて、それを紐解いていくようなものが私は好きだから、そんなスタンスで撮っていました」

「京都で撮影したフィクションの部分はカッチリと決まってました。出演者が与那国島に渡航できなかったので、彼らが登場する映像は全部京都で撮りました。自然を感じる場所を探してロケーションしました。実はガッツリ鴨川が映り込んでいて、京都を知ってる人が見たら分かると思います。京都で撮るしかない状況だったので」

「トマトは絶対視点になる」

 ―動物や植物の描写が印象的で、面白いショットやシーンがいくつもありました。唐突に画面が投げ捨てられたトマトの視点になったりして(笑)

「あのシーンは『トマトは絶対視点になる』と思って撮った、こだわったカットです。私が映画の知識があんまり深くないんですけど、とある監督の方がレビューで『東盛監督は無自覚にあのショットを撮ったんだろう』ということを指摘してたんです。私が知らない何かがあるんだろうなと(笑)」

 ―カメが重要な位置付けで登場しているのも印象深かったです。

「カメを出したのは、2つの世界線があってそれをつないでいくような役割を持たせたかったというか。カメが両方の世界に登場して、一個体や場所にとらわれずに世界全体をずっと見守っているような存在にしたかったんです」

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