キムタツコラム⑧沖縄の方々に受け入れてもらうまで

 

 皆さん、こんにちは。木村達哉です。どうぞよろしくお願いします。このHUB沖縄だけでなく、琉球新報の「りゅうPON!」でも月1回の連載をすることになりました。もうめちゃくちゃ嬉しいです。4月10日に発行された同紙の第1面と第2面がキムタツ特集で、赤ん坊の頃からの写真が数枚掲載されていました。記者さんの文章はさすがのひと言で、読むと僕がまるでものすごく良い人みたいです。これはなんと素晴らしい記事なんだと、宜野湾の部屋でひとり大喜びしておりました。また、沖縄の方々からご連絡を頂戴しました。幸甚の至りとはこういうことを指すのです。皆さん、ありがとうございます。Facebookなりメールなりで多数の応援を頂戴しました。お一人おひとりにお返事を書かせていただきました。

芸能事務所、オリジン・コーポレーションとの出会い

 昨年3月に神戸の灘中学校・高等学校を退職して、それまでも本は粛々と書いてきていたのですが、専業の作家となりましてね。作家といいましても、作家になるのに資格試験があるわけではございません。自分は作家だと名乗ればもう作家なのです。で、退職の挨拶をしておかねばならんなと思い、いつも僕の著作を参考書コーナーに多数置いてくださっているジュンク堂書店那覇店の森本店長に「辞めました」とご挨拶させていただきました。それが2021年4月。森本店長から数珠つなぎ的にいろんな方々と出会うことになります。まずはオリジン・コーポレーションの首里のすけさんを紹介していただき、そしてその芸能事務所の一員となりました。また、それが奏功したのかはわからないのですが琉球新報のイベントで登壇させていただき、HUB沖縄で連載してほしいとご依頼を受け、そしてこのたび沖縄で2本目の連載となる琉球新報での執筆をさせていただくことが決まりました。

沖縄での初仕事は2013年 「場所」から「人」へ

 思えば、初めて沖縄でお仕事を依頼されたのは2013年ではなかったでしょうか。昭和薬科大学附属中学校・高等学校のPTA総会で講演をしてほしいというご依頼をいただきましてね。学校名すら存じ上げなかったので不安になり、その紹介をしてくれたベネッセコーポレーションの営業担当者と一緒に訪問して、1時間ほど講演をいたしました。翌年には興南中学校・高等学校からご依頼をいただきまして、これまた保護者の皆さんの前で講演をすることになりました。終了後、興南の先生方と飲みに行きましてね。沖縄が抱えるさまざまな問題について教えていただきました。関西に住んでいるとわからないことだらけで、なんとか自分の経験を活かしていただけないものかなぁと思ったものです。それまでも沖縄は大好きで、毎年夏になると訪れては北谷や恩納村で遊んでいたのです。が、人と触れ合うという経験をしたことがなく、沖縄はあくまでも「場所」だったのです。ところが、それ以後は「人」になりました。場所に来るというよりも、誰かに会いに来るという変化、これは僕にとって劇的な変化でしたね。

高校生を対象に行った無料セミナーの様子

傷付き思い悩んだある一言から

 あるとき、先生方との勉強会が終わり、飲み会(当時は「ゆんたく」という言葉すら知らなかった)で盛り上がっていたときに、当時は非常に傷つき、そして思い悩むことになる経験をしました。ある学校のベテランの先生に「なんだかんだ言って、沖縄で自分の本を売りたいんでしょ」と言われたんです。

 そりゃ本をたくさん買ってくだされば、1冊あたり100円ほどが僕に入ります。ですが、そのためにやっている活動ではありません。僕はその先生に言いました。「先生の学校の生徒たち全員が僕の本を1冊ずつ買ってくれたとしても、片道の飛行機代にもなりません。こうして毎月沖縄に来ているのは大赤字なんです。そりゃ売れれば嬉しいけど、そんなんじゃないんです」と。

 でも、それなりに悩みましてねぇ。帰りの飛行機では40度近い熱を出しました。考えすぎて。で、帰宅してから思ったんです。もしかしたら僕の努力が足りないんじゃないかなぁと。熱は相変わらず高かったのですが、大阪に行きましてね。浦添出身の方が天神橋筋六丁目というところで三線ショップを経営しておられることをネットで調べて知ったのです。一番安い三線を買って帰りました。そして、一生懸命に練習しました。

 翌月にまた沖縄を訪れましてね。英語科の先生方の勉強会(興南の視聴覚教室でやっているのです。多くは公立中学校・高等学校の先生方が参加してくださいます)で、三線を演奏したんです。「島唄」「島人ぬ宝」「涙そうそう」などを弾くと、多くの先生方が驚いていらっしゃいました。涙ぐんでおられる先生方もおられます。「先月までは弾けなかったでしょ?」とおっしゃったのは「なんだかんだ言って」と僕に口舌の刃を向けられた先生でした。芸は身を助くというわけではないのでしょうが、三線の勉強をしてよかったです。それ以後、那覇高校や首里高校をはじめ、県内の多くの学校に招かれることとなりました。石垣島の八重山高校から毎年呼んでいただくことにもなりました。そしてなによりも、たくさんの友達ができました。僕の財産になりました。

ウチナーンチュでも移住者でもないけれど

 僕はウチナーンチュではありませんし、年の1/3ほどを宜野湾で過ごしているといっても移住をしているわけではありません。しかし、こうして沖縄の方々から受け入れてもらえるようになったのであれば、こんなに嬉しいことはありません。HUB沖縄や琉球新報のコラムを読んでくださった沖縄の方々が、木村達哉という人がいるんだと知ってくだされば嬉しいなと思います。

 以前、浦添の大きい公園を散歩していたら、女子生徒2人に後ろからタックルされました。「自分らなんなん?」と目を丸くしていると、首里高校の生徒たちでした。「最近来ないね」と言うので、「呼んでもらったらいつでも行くよ」と言うと嬉しそうに走り去っていきました。沖縄の人って声をかける前にタックルするんですね(笑)。とても嬉しかったです。HUB沖縄と琉球新報を読んでくださっている方々にお礼申し上げます。そしてもしかしたらジュンク堂書店那覇店やオリジン・コーポレーションのイベントでお会いすることもあるかもしれませんね。その時にはタックルではなく、笑顔を交わし合えれば嬉しく思います。

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木村 達哉

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作家、関西学院大学フェロー、新潟産業大学客員教授、NPOおきなわ学びのネットワーク理事。オリジン・コーポレーション所属。2021年3月まで灘中学校・高等学校教諭。奈良県出身。沖縄で愛犬さくらと一緒に年の3分の1ほどを過ごし、県内の学校や教育機関で英語授業や講演を行う。
趣味はゴルフ。そのわりに90を切ることができずに苦しんでいる。

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