「私は忘れない」これからの与那国への祈り 映画『ばちらぬん』東盛あいか監督インタビュー

 

コロナ禍が「島を吸収する時間」に

 ―ドキュメンタリーとフィクションとを混ぜ合わせる形になったのはどんな経緯があったんでしょうか。

「実は卒制として最初に出した企画は全くの別モノだったんです。与那国に大学同期の仲間たちを連れて行って、オールロケの長編フィクションでした。話の内容も全然違ってました。4年生の春にコロナ禍になったことで、当初の企画で撮ることができなくなり、練り直さざるをえなくなりました。気持ちの切り替えがすぐにはできなくって、かなり落ち込んでる時期があって。

 でもその時にもとりあえずはカメラを回そうと思い、島の先輩やおじいちゃんおばあちゃんたちに色々話を聞いたんです。その時、自分が15歳まで育った島なのに初めての場所にも連れていってもらいました。まだまだ島の知らない面もあるんだな、ってあらためて思ったんです。落ち込んでた時間が与那国を吸収する時間に変わったというか。それがあって今の『ばちらぬん』が出来た

 撮影の準備もあって先に自分1人で与那国に戻ってたんですが、コロナで移動ができなくなって島に閉じ込められる形になりました。仲間に会えないし、映画作れないしで、あの時は人と人とのつながりを強く求めるような時間だったと思うんです。でもそれを映画に落とし込んだら、場所も時間も関係なく『つながれる』と考えて、ドキュメンタリーとフィクションを与那国と京都で作ろう、というところから始まりました」

 ―劇中には不思議な登場人物や、かなり抽象的なイメージも散りばめられていて、受け取り方や解釈の幅が無限にありそうだと感じました。

「特に引用とかは無いんですが、とりわけ人物に関しては人間離れして“浮いてるような感じ”にしたかったんです。観た人が自由に受け取って、色んなことに当てはめていけばいいなと思って。

 それぞれに抽象的なイメージを持った野菜を分け与えている人、匂いをかぎ回るクバ笠の少年、藍染の女の子、骨でモールス信号を発している女の子の4人は一貫して何かを探し求めている。『どこからきて、どこへゆくのか』というのは彼ら自身も分からない。こうした抽象性のあるフィクションをドキュメンタリーと掛け合わせたら、観る人の空想・想像で映画の可能性が広がるんじゃないかと思ってやりました。

 実際、色んな人が色んな『ばちらぬん』を語ってくれて、逆に私が教えてもらったりして。あ、『ばちらぬん』が歩いてる、という感覚になって。歩かせてもらっているというか」

「自分自身の分身」としての作品

 ―幻想的な映像の着想はどんな所からきてるんでしょうか?

「制作の仲間からどんな夢を見たのかという話を聞いたり、『ばちらぬん』関係なく皆が撮りたいショットや観たい画を聞いたり話したりしました。夢って、見たその人の潜在意識に触れるんじゃないかなと思って。そこから着想は得ていますね」

 ―『ばちらぬん』は「忘れない」という与那国言葉ということですが、どんな思いが込められているのでしょう。

「忘れないで、っていう意味だと『ばちんなよ』になるんですよ。言葉の響きとしても強い『ばちらぬん』は1人称で自分自身に刻む感覚です。映画が自分自身の分身のようだなと完成してから実感するようになりました。自分自身に『私は忘れない』と刻み込むための、これからの与那国に対する祈りというか、願いというか。それを観た人たちがどう思うか、どう反応するかを見てみたかったんです」


 沖縄本土復帰50周年映画特集「国境の島にいきる」は、4月30日から那覇市の「桜坂劇場」にて先行上映が始まる。その後、5月7日から東京都「K’s Cimema」「UPLINK吉祥寺」で公開予定だ。沖縄を拠点に国内外の映画作品を扱う「ムーリンプロダクション」が配給を担う。2作品どちらも鑑賞できる全国共通回数券も劇場窓口で販売中だ。

■関連リンク
「国境の島にいきる」WEBサイト
桜坂劇場 WEBサイト
沖縄発の映画配給会社 アジア各都市巻き込み“文化の中継貿易” ‖ HUB沖縄

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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