「ツチトイブキ」がワインで沖縄飲食シーンに広げる美味しさの波紋

 

営業形態が図らずもコロナ禍にフィット

 同店のもう1人のソムリエ・伊波史人さんは、ツチトイブキも含め「ワイン食堂トランク」や「プーゾチーズケーキセラー」を手掛ける「株式会社トランク」の系列店で、10年以上に渡って県内飲食のシーンやトレンドを目の当たりにしてきた。

 そんな経験も踏まえた上で「ワインという切り口はなかなか難しくて、実はオープンにあたっては懸念があったんです」と振り返る。

 しかしその一方で「那覇は飲食のトレンドが変わりやすい環境」という体感があった。きちんと美味しいものを揃えて火種さえ作れば、広がっていく可能性も見込んでいたという。「ただ、ワインを飲んでくれる人たちが潜在的にこんなにたくさんいるとは正直思ってませんでした」という“嬉しい戸惑い”も見せる

 さらに、コロナ禍という状況に営業形態が図らずもフィットしたことも大きかった。角打ちでの酒類提供が滞ることは断続的にあったものの、通常の営業時間が午後1〜9時のため緊急事態宣言などによる時短営業の影響をそんなに受けなかったことに加えて、何より「家飲み」にシフトした人たちが気軽にワインを買っていくようになったのだ。

「今日の夕飯の○○にワインを合わせたいんですけど、と問い合わせてくれるお客様が多くなっているんです。ある意味でワインが“ファッションの一部”だった感覚の段階から、純粋にワインの美味しさを求めてもらえるようになっていることが、ちょっと大げさですけど何だか日々感慨深いんです(笑)」(伊波さん)

ワインをカジュアルに美味しく味わうカルチャーの広がりについて話す伊波さん

「美味しいものに出会える」という信頼

 店の席数は決して多いわけではないが、角打ち営業のため客の回転は割と早い。そしてワイン好きが集まるのでボトルが次々に開くし、空く。

「ロスがほとんどない状態で1日に30〜40本空きます。お客様はもちろんですが私たちもたくさんの種類のボトルを飲んで、その美味しさを1本1本しっかりきめ細かく説明できる環境が整っていることはうちの強みだと思ってます」(竹内さん)

 これが「ツチトイブキに行けば美味しいワインが飲める」という店の信頼につながっているし、客からの支持を得られる大きな特徴の1つだ。

 客は数人のグループもいれば、フラっと1人飲みで訪れる人もいる。わいわい話すのも良いし、ゆっくり味わうのも良い。入店した時点で、客同士でも「ワイン好き」という共通理解があるため、初対面でもすぐに話が弾み、中には次の店にそのまま一緒に飲みに行く人たちも少なくないという。

心からの「好き」を共有する

「飲み疲れしなくて身体に染み入る独特な美味しさと、『自由』な所がナチュラルワインの良いところです」と竹内さんが魅力を語ると、伊波さんも「時間が経つにつれて味の表情が変わるところも全然興味がつきないですよね」と間髪入れずにかぶせてくる。

 2人の話を聞いていると「心からワインが好き」だということが伝わってきて、ついついこちらも頬を緩めてしまっていたところ、竹内さんが真顔でしみじみと「私たちって本当にワインが好きなんだねえ」と呟いたので思わず笑ってしまった。

 そんな2人が口を揃えて言う現状の課題は人材育成だという。酒屋という立場上、飲食店という“味のプロ”を相手にすることも多いため、今後を見据えるとソムリエ以外のスタッフでもそれなりの知識が必要になってくる。そのための教育にも尽力していく予定だ。

 これからの展開について訊ねたところ、竹内さんから「あくまで酒屋だから出来る役割を模索しながら、今後もまだまだナチュラルワインを飲めるお店を増やしたいです」と意欲的な答えが返ってきた。

「沖縄に入ってきていないワインをたくさん紹介したいですし、同時に県外の人が店に来てくれた時にはその人たちが驚くようなラインナップにもしておきたいんです。そして酒屋としてワインを通してつながるたくさんの出会いの中で刺激をもらって、自分自身のレベルもまだまだ上げていきたいと思っています」

 ツチトイブキが起こす美味しさの波紋は、この先まだまだ広がり続けそうだ。

■関連リンク
WINE SHOP「ツチトイブキ」 WEBサイト
宮古島でこんなにワイン飲めるの? 独自の“ナチュール文化”事情 ‖ HUB沖縄
日常に美味しい幸せを 「papoter pepin パポテぺパン」‖ HUB沖縄

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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